壁の抜け穴
さてとどうするか。城から引っ張り出したリザクールを今度は俺の作った岩の壁で閉じ込めたのはいいが、これを少しでも開こうものなら、また煙になってどこかへ飛んでいってしまいかねない。
「でもこのままじゃあ私たちも手詰まりだよ」
「心配するな、俺に任せろ。Rランクスキル発動、岩の板壁。壁の中にもう一枚壁を作れ」
俺はスキルを使って、俺の作った岩の壁でできた箱の中にもう一枚壁を生成させる。そうすることで、壁の厚みの分だけ中が狭くなる訳だ。
「これを繰り返していけば、中は圧縮できるだけ小さくできる。奴は煙になれるというのであればもっと小さくできるだろうからな」
「それだと外側はどうするの?」
「内側の壁ができれば外側は削っても大丈夫だ。そうして段々小さくすれば持ち運びもできる」
「持ち運び!」
俺は楽しそうに目を輝かせるルシルを見ながら岩の箱をどんどん小さくしていく。
「ほう、ここまでいっても悲鳴一つあげないとは見上げたものだな」
「そうなのかなあ。実はもう逃げちゃっていて中には入っていないとかだったら……」
いやいや、怖い事言うなよ。だったら奴はどこに行ったって言うんだ。
「小さくしていっているところだが……確かに手応えがない」
「ゼロ、床は? 地面の方はどうなっているの?」
「それは大丈夫だ、きちんと岩の壁で床もふさいでいる……」
まさか。外側を囲っている岩の壁は次々と新しい物を作っては外側を壊している。だが床面に置いた壁は一番初めに作った物をそのまま使っている。
「まさかっ!」
俺は岩で固めた箱をつかむ。両腕を伸ばせばどうにか抱えられる大きさにまで小さくできている。この分だと中は子供が膝を抱えてうずくまっている程度の空間しか残っていないはず。
俺の、そしてルシルの危惧が現実に起こらなければ。
ゆっくりと箱を持ち上げた俺の目に、それは映った。
「……くっ、やられた!」
「ゼロ……」
床として作った岩の壁は真ん中に小さな穴が空いていたのだ。それとつながるように地面にも小さな穴が。
「この穴を煙になって逃れたのか……」
「ゼロ、相手が煙になれるなら水だと」
「よしっ、ルシル頼むっ!」
「判った! Rランクスキル海神の奔流っ!」
ルシルがその指先程の小さな穴に向かって水を流し込む。精一杯加減をしてその穴に入り込める程度に細い水流を穴に叩き込んだ。
「いいぞ、そのまま押し込んでしまえ!」
「うん!」
ルシルが精神を集中させて細い細い水を制御する。小さな穴に水が勢いよく流れ込んでいく。
「ゼロ! 手応えあったよ!」
「よしっ!」
何かが突き抜けるような音がして、城とは反対方向の森の中から噴水が出現した。ルシルの放った水がリザクールの掘った穴を通って出口まで噴き出したのだ。
「そこかぁっ!」
噴水に向かって駆け出すと、その先にはびしょ濡れになったリザクールがよろめきながら逃げようとしていた。