敵城攻略の第一歩
目の前にそびえ立つ石造りの城。壁や尖塔には森の木々も絡みついているような、どこか森と渾然一体になっているようにも感じられる。
日もかなり落ちてきて森の薄暗さが一層際立つ。
「なんだか不気味だな」
ところどころに点いている燭台の灯りが揺らめいて見える。これも魔法の灯りなのだろうか。少し青白く感じられる火だ。
「そう? 私は別に、木の生命力が感じられて、自由でいいと思うけど」
こういう所はやはり魔王の気質を持っているルシルだけあって、魔力で歪んだだろう木々のうねりにも動じる様子はなかった。
魔王の城でも常に至るところで魔力による灯火が点いていたものだ。城という性質上、防御のためには窓もあまり大きくは取れないらしく、室内の明かり取りには苦労していたようだが。
「暗くなると、ろうそくの火が少し不気味に思えるよ」
「ふふっ、人間らしい感想ね。ゼロもまだ可愛いところがあったみたい」
「よせよ。さあ、とっとと終わらせて帰るぞ」
「そうね、じゃあ入り口を探して……」
ルシルが門を探しているところを俺が止める。
「いや、SSSランクスキル発動、地獄の骸爆! まずはあの城郭から吹き飛ばす!」
俺の手から巨大な炎の塊が飛び出して城の上部を爆発で包み込む。
「いきなり!?」
「奴の家も、屋根を消し去ってやった」
「え~」
「俺の家も奴が来なければ屋根が吹っ飛ぶ事もなかったからな」
「そうだけどさー。でもゼロ、なんだか少し手加減してる?」
「いや、そんなつもりはないけど……」
普段の全力で放った地獄の骸爆だ。尖塔をいくつか消滅させる事はできたが、確かにルシルが言うように、もっと破壊できたようにも思える。
「そっかぁ、う~ん……」
ルシルは一人で悩んでしまう。
俺は俺で当初の目的を果たすとするか。爆発音が収まったところで俺は宣言する。
「おい! コウモリマント男!! 聞こえているか!」
瓦礫の崩れる音が響いているものの、俺の声は相手に伝わっているはず。なぜなら敵感知で感じられる痛みが強くなっているからだ。
「出てこないのであればそれはそれで構わん! もう一発、今度は正面に大きな穴を開けてやろうか! 風通しがよくなってこの陰気くささもだいぶマシになるだろうさ!!」
俺は手のひらに炎の塊を作って投げる構えを取る。
「よくも我の城を……」
マント男のリザクールが瓦礫の中から現れた。そこに狙いすまして俺は火球を放り込む。
「ぐわっ、いきなりなにをっ!」
「うるさい黙れ! お前さえ消し去ってしまえば目的は達せられる! SSランクスキル発動、豪炎の爆撃! 食らえ、そして弾け飛べっ!」
俺は次々と火球を作ってはリザクールに向かって発射する。流石に俺の爆炎を食らってしまえばただでは済まないだろう。
「……さて、どうだ? それなりに傷は負わせたかな……? むっ!」
敵感知の反応が消えない。それどころか強くなってきているという事は、リザクールの殺意が強烈になってきているという事だ。
「き、貴様ぁ……!」
これだけの攻撃を受けて、城はもう瓦礫の山になっている。
だがリザクールはそのトレードマークのマントがボロボロになりながらも、その瓦礫の中から立ち上がってきた。
「よくも我の城を消し去ってくれたなあっ!」
どういう事だ。俺は手加減をしていない。城の崩壊度合いから見てもそれは間違いない。
だがリザクールは無傷とは言わないまでも、まだ戦う余力があるくらいには力が残っているようだ。
「ほほう、なるほどなるほど。我に対する能力の発現が、ほほう。そう言う事か!」
「なんだマント男、なにが言いたい!」
「勇者とやら、お前、我の呪いを肩代わりしているようだなあ!?」
そう言う事か! リザクールへのダメージが思ったよりも少ないというのは、ロイヤに掛けられた呪いを俺とルシルがゴブリンプリーストのチュージと分け合ったから、その影響が出ていると言うのか!
「完全に無力化するまでは至らないようだが、勇者よ」
不敵な笑みを浮かべてリザクールは起き上がり、形の上だが身体の埃を払う仕草をする。
「お前の能力は我に通じんようだな!」