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乙女心とわしづかみ

 あの後、なぜか俺はルシルからビンタを食らっていた。左右の頬がジンジンと痛む。

 俺たちは拠点となる家を出て二人だけの探索行を始めていた。


「あのコウモリ男が消えた先、本当にこの方向でいいんだろうか……」


 そう問いかけてもルシルはまったく反応を示そうとしない。


「霧が雲みたいになって消えていった方向だからな、きっと間違いないだろう。この先にあのコウモリ男がいるに違いない」


 独り言のようにつぶやいて俺は歩を進める。


「あの消え去った霧を追っていけば、きっと奴にぶつかる。そうすればあの炎の呪いも解けるかもしれない」


 結局チュージは解呪をできなかった。秘術を尽くしてくれはしたのだが、ロイヤの苦しみは一向に収まる気配がなかったのだ。


「ロイヤを助けるためにもあの呪いを解いてやらなくてはならないからな」

「……」


 ルシルはまったく返事をしない。

 これはあれだな、一度きちんと詫びを入れておいた方がよさそうだ。チュージに呪いが集中しないように心臓に近い所へ手を当てて、呪いを分散させようという秘術のためなのだから。それはルシルも理解してくれているのだが。


「仕方がないじゃないか、ルシルだって判ってやっていたのに……」


 俺がルシルの胸をわしづかみにした事をすごくすごく根に持っているようだ。あれから顔を赤らめたルシルが事あるごとに俺の頬をひっぱたくのだ。


「それでもなの!」


 返事があったと思ったらこの一言だ。それにルシルは判っていても俺を叩かずにはいられない。

 別にルシルの身体はもう俺が触れていない部分が無いと言っていいくらい、全て許されているような関係だったのに。伊達に二人だけの生活を送っていなかったはず。


「それでもなの!!」


 乙女心というものは難しいな……。


「判った判った、二人だけの時とは違って、ロイヤの呪いのためとはいえルシルにも恥ずかしい思いをさせた。それは謝るから」


 俺がそう言うとルシルは歩みを止めて俺を見る。


「じゃあ……して!」


 えっ、なにを……。

 ここはコウモリ男を追って歩いている草原のど真ん中。俺たちの他に知的生命体は見当たらない場所だ。

 だからといってこんな所で求めるなんて……。


 でも、ここでなにをするのかなんて聞いたら、それこそ命を取られかねない。


「判った……」


 俺はルシルを見つめて近付いていく。

 ゆっくりと顔を上げるルシル。視線が絡む。


「目を……閉じてくれるか?」

「私はゼロを見ていたいの。駄目?」


 そう言われると一気にこっちまで恥ずかしくなってくる。


「だ、駄目って事はないけどさ、こうやって改めて見つめ合うとだな……」

「むぅ……。判った」


 ルシルはそう言いながらゆっくりとまぶたを閉じた。俺の方へ顔を向けながら。

 これはあれか、あれだな!

 俺は確信を持ってルシルの肩をつかむ。


「ん……」


 その動きに敏感な反応を見せるルシル。

 小さく開いた唇に、俺は顔を近付けていく。


 午後の日差しの中、二つの影が、一つになった。

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