仲間との合流
暗くなっている森の中をさまよう。ゴブリンたちは赤外線暗視を持っているため周囲と違う熱源があれば認識できる。
見通しの悪い森の中であれば、明るい時よりも赤外線暗視で感知した方が発見も早い。
「人と動物との区別も付くのだったよな」
「はいゼロ様。ある程度なら形が判ります……あ、あそこに!」
俺には暗い森でしかない所だったが、動く者の気配は感じられた。
「誰かいるか! 俺だ、ゼロだ!」
森の中の茂みに呼びかけると、そこから人が飛び出してきた。
「ゼロ様にゃ~! 怖かったにゃ~!」
もふもふの耳をパタパタ動かしながらカインが抱きついてきた。月の光を浴びて猫耳娘の姿に変わっているが、元は人間の男の子だ。
「心配していました、ゼロさん」
カインの後に続いて茂みから出てきたのは、カインの姉でやり手の商人であるシルヴィア。その後ろから城塞都市ガレイで見かけた警備隊の精鋭たちの姿も見える。
「皆無事だったか。ドッシュたちはいるか?」
ドッシュはヒルジャイアントの三人の内の一人で、三人とも身長三メートルを超える巨人だ。
「ドッシュさんたちは皆王国の兵に連れて行かれてしまいました。抵抗はしませんでしたので命までは、とは思いますが……この先に魔族の一団があるという話がありまして、恐らくそのために……」
「磔にして魔族を怖がらせようとしているみたいだったにゃ……」
「私たちが森に隠れて草木で偽装を施してくれたのですが、自分たちは大きくて目立つからと、別の方角へ囮になって……」
「そうか……ドッシュたちが」
荷馬車もうまく偽装してくれていたようで、シルヴィアたちに被害は無かった。
「ゼロ、行くんだね?」
俺は王国の兵士の装備を引き剥がすと、胸当て、肩当て、籠手と身に着けていく。
「ああ。家をこんなにされて腹も立つし、何よりドッシュたちを連れて行ったというのが許せない。あいつらも俺の仲間だ。一緒に家を建てて狩りをした大切な家族だ。失うわけには……いかないさ」
「ゼロさん、私たちも協力します!」
「シルヴィア、たった今合流したところで済まないがこの護衛とゴブリンたちを連れて城塞都市ガレイへ戻ってもらえないか。あそこにはセシリアたちもいるし強固な城壁が外からの侵攻を防いでくれる」
「でもそれでは」
「俺が帰るところにいて欲しいんだ」
「そ、それでしたら私がお嫁さんみたいです……」
急にシルヴィアが頬を赤らめたように思えた。実際には暗い森の中であまりよく判らないのだが、それでも月明かりで恥ずかしがっているのが見えた。
「ルシル、今回は荷馬車に乗っていてくれ。工場の時に魔力を使いすぎただろう。まだあの回復が間に合っていないはずだ」
「ゼロ、私は大丈夫だよ。もう大分回復しているし一人でも歩ける……」
俺は倒れそうになるルシルを支える。
「今だって立っているのが精一杯だろう」
「でも……」
「ゼロ様、おいらがルシル様をお助けしますんで、一緒に連れて行ってくだせ」
「チュージ……」
ゴブリンプリーストのチュージがルシルのサポート役を買って出る。チュージはゴブリンだから身長も一メートル程度しかなく、物理的な支えは期待できないが。
「プリーストならではの神聖魔法でならお役に立てると思いますぜ」
「そうか、疲労回復とかも頼めるからな。判った、チュージにはルシルの補助を頼む。それと一つ併せて頼みたい事がある。これはかなり危険なものになるが同行するのであればやってもらいたい事だ」
「はい、ゼロ様の事ですから信じています。なあにどうせあの工場で死んだと思ったこの命です、いつでも捧げる覚悟はありますぜ」
「ありがたい。その命は失わせないようにするさ」
こうして俺はこの先にいるであろう王国の軍隊に捕らえられている巨人たちを助けるために軍の足跡を追う事にした。
同行するのはルシルとチュージだ。
シルヴィアたちには荷馬車でガレイの町へと移動してもらう。
「どうかゼロさん、お気を付けて」
「ああ、皆を頼む」
俺はルシルを背負うと一気にかけ出す。それに遅れまいとチュージが続く。
暗い街道は月明かりに浮かび上がる軍の足跡が頼りだ。
巨人たちの無事を祈りながら、とにかく街道をひた走った。