昼間の花火
火球の中、俺はスキルを発動させたが流石にナイフではその威力に耐えられなかったようだ。粉々に砕けたナイフの欠片が散り去る前に俺はもう一度スキルを発動させる。
「Rランクスキル発動、氷塊の槍! 散ったナイフの欠片を氷でつなぎ止めて、今一度ナイフの、いや、剣の形に固め直せ!」
ナイフの欠片を使ってその欠片同士を氷で結ぶ。欠片と氷が長剣の形をした造形物になる。
「これでもう一度だっ! SSSランクスキル発動、重爆斬! 氷が剣の形を維持できている間にっ!」
俺が氷の剣を突き上げてスキルを発動させる。剣の先端がまばゆく光り、圧縮した水蒸気の密度を更に高めていく。
「うおおおぉぉぉ!!」
俺の氷が溶けるか溶けないか。どちらが早く砕けるのか。
「いっけぇ!!」
更に気合いと魔力を込めて、火球を中から突き上げる。
幕切れは一瞬だった。
何かが弾けたような、風船が割れたような、そんな音がして視界が赤黄色い炎の色から空の青に変わる。俺が火球を下の方から押しとどめていた所で水蒸気爆発が起きたため、火球は上空へと押し上げられたのだ。
「三連打、SSSランクスキル発動、重爆斬! 打ち上げろっ!」
俺がスキルを発動させたところで氷でつないでいた剣が砕けた。
だがスキルの威力は巨大火球を天高く弾き飛ばすのには十分だ。火球は上空高く打ち上げられていく。爆散によっていくつかの小さい炎の塊が地面に降り注いだが、それはルシルが海神の奔流で水を生成して消火してくれた。
「なっ、我最大の火球がっ」
リザクールは流石に脱力して状況を見つめている。その背後、超高空では突き上げた巨大火球が大爆発を起こしていた。
さながら、祝い事の打ち上げ花火のように。
「おい、そこのマント男」
俺は屋根の上に降り立って、リザクールを見上げる。
「勇者と魔王の力、侮るなと言っただろう。世界を滅ぼす事さえできる俺たちが、たかだか草原を灰にする程度の力に屈するはずがない。なあルシル?」
「そうよ、ゼロの言う通り。私たちなら地獄へつながる穴をうがったり、天国へつながる階段を作ったりなんて事だってできるんだから!」
まあ、この世界を創ったバイラマたちのやっている事に比べれば、まだまだ小さい事かもしれないがな。それでもだ、世界規模の破壊も何度となく防いできたんだ。
リザクールは歯噛みをして俺たちを見ている。その瞳は燃え盛る炎のように真っ赤に染まっていた。
「いいだろう、お前たちの力存分に理解した。だが我の矜恃がこのまますごすごと引き下がるをよしとせん!」
リザクールは口角を上げて不敵な笑みを見せる。
「ゆえに、燃える血の呪いをコボルトに掛けてやった。これで放置すれば族長は死に至る!」
「なにっ」
穴の空いた屋根からロイヤの状況を確認する。
「ゼロ、そういえばさっき、小さい炎がロイヤちゃんの所に落ちて行ってた……」
それか!
爆散した炎に紛れてロイヤに呪いを掛けていたとでも言うのか!
「汚い真似を……っ」
「口惜しいか? 口惜しいであろう! その無念さ、無力さは我が長年抱えてきた悩み、恨み、憎みである事よ! ハーッハッハッハ!」
「くそっ! Rランクスキル発動、氷塊の槍っ!」
俺の放った氷の槍がリザクールに向かって飛んでいくが、リザクールは氷の槍が当たる直前で霧状になって散った。
「やったの!?」
「いや……あれは俺のスキルに貫かれたのではなく、自分から霧になったように見える……」
俺の投げた氷の槍は霧を突き抜けて空へと飛んでいく。
「そのコボルトの娘、バウホルツ族の族長はここで息絶えるのだ! これで我の積年の恨みが晴らせるというものだ! ハーッハッハッハ!」
霧と共にリザクールの笑い声が青空に消えていった。