コボルトの殲滅計画
家の火災はほぼ鎮火している。食堂にしている家は屋根が崩壊していて一番被害が酷い。俺とルシルが立っているのはその隣の仕事場の屋根の上。もう一軒、寝室にしようとしていた家は多少火の粉が飛んだくらいで焼け焦げができたくらいだ。
上空に浮いているリザクールとその周りを旋回するネズミコウモリ。この被害の元凶は表情をコロコロ変えていたが、今は何かを覚悟したように落ち着いた様子を見せる。
「……なるほど、なるほどな。勇者と魔王! 面白い、面白いぞ!!」
一人興奮しているリザクール。明るい昼間の草原にリザクールの高笑いが響く。
「道理で昨夜は我も逃げざるを得なかったわけだ」
「あの攻撃の中を逃げたとでも言うのか」
「左様! 危機一髪とはこの事であったわ!」
くっ、渾身の一撃も息の根を止めるには至らなかったか。
「ならば問おう。なぜお前はコボルトを恨む。ロイヤを付け狙う!」
「やはりな、読み通りであったか。そこのコボルトはロイヤ族長だったようだな」
あ、しまった。ここにいるコボルトがロイヤだって事、リザクールは知らなかったのか。
これは余計な情報を与えてしまったかなあ。
「ん、族長だと? あんな幼い女の子だぞ」
ひとまず視線をずらしながらそれらしい事を言ってみる。
「コボルトのバウホルツ一族最後の一匹だからな。一族郎党最後まで処分してやらねばならん。それにかの娘が族長というのも確かだ」
それでもリザクールは平然と語り続ける。
リザクールは顔の前で右の手の平を上に向けて空中の何かをつかむような仕草をした。
「なぜならば、我がこの手で前の族長を殺したからなあ! その娘であるロイヤが次の、そして最後の族長だ! もはや一匹も民がいない族長だがな!!」
高々と宣言するリザクール。
何と言う事だ、このリザクールというマント男、今までどれだけのコボルトをその手に掛けたというのだ。
「どうして、どうしてそんな酷い事をするのよ……」
ルシルも黙ってはいられないのだろう。憤りを感じてリザクールに食ってかかる。
「しれた事、コボルトは世の害悪。我が眷属として使役してやった恩義を忘れ反旗を翻すなど言語道断! よって討ち滅ぼすに何のためらいがあろうか!」
いやいや、それでは滅ぼす理由にはならないだろうが。
だがこういう奴はまともに会話できたためしがない。意見が合わない事については他の方法で解決させる必要があるだろう。
「力尽くで奪うというのであれば俺も抵抗するが」
「もう抵抗しておるだろうに」
「降りかかる火の粉は払わなければな」
「言いよるわ、人間の勇者風情が」
俺とルシルが勇者と魔王であったという事はリザクールにとってたいしたことではないようだ。一瞬は驚いただろうがそれでも今は恐れを抱いているようには見えない。
「この大地ごと業火に包み込んでもよいのだぞ。我には何も不利益はないからな!」
「ほう、ルシルのスキルで鎮火させられた程度の火力でか?」
「その減らず口もそこまでだ!」
リザクールは両手で火球を造り出す。
でかい!
リザクールが両手を天に掲げると、とにかくでかい火の弾が渦を巻いて天を覆い尽くしていく。
「昼間は天よりの火力がみなぎるからな、夜の時とは違うという所を見せてやろう!」
目の前に巨大な太陽が迫ってくるような錯覚すら起こすような巨大な火球。いや、もう一つの太陽と言ってもいいかもしれない。
「安心しろ、痛みを感じる間もなく一瞬で骨の髄まで灰にしてくれるわ!」
リザクールの手から巨大な火の玉が投げられた。