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太陽に踊るコウモリ

 マント男の火球で折角の新築が燃やされていく。今の所被害は俺たちがいた食堂の一軒。後の二軒はまだ無事だが、あんな巨大な火球が当たったらただじゃあ済まないのは判る。


「なぜそんな! やめるんだ!」


 俺は大声で屋根の上のマント男に問い詰めるが、言葉くらいではマント男の破壊行動を止められない。


「なぜだと? 我、リザクールに歯向かう者がここに隠れているだろう! それをいぶり出して焼き尽くして骨の髄までしゃぶり尽くしてやらねば我の気が収まらんっ!」


 知るかボケ! いきなり現れて人の家を燃やそうなどと。

 俺がそのリザクールというマント男に遠距離攻撃を仕掛けようとした時だ。


「Rランクスキル海神の奔流(ウォーターバースト)っ!」


 ルシルがスキルを発動させる声が響き、家の中から激しい水流が放出される。

 家の屋根は水に吹き飛ばされ、その勢いで燃えていた火も一瞬で消えた。それどころか勢いが弱まって雨のように降ってきた水が他の家にも降り注ぎ、燃え広がる前に火を消していく。


「なっ、なんだこの水はっ!」

「やってくれたぜ、ルシル!」


 慌てるリザクールの姿が滑稽に見える。


「ちょっと! よくも……」


 ルシルが穴の空いた屋根の隙間から顔を覗かせた。


「よくも私のお昼ご飯を……っ!!」


 ああ、食べ物の恨みは怖いからな。ルシルは焼け落ちた屋根の破片でひっくり返った鍋と、隣家の屋根に立つリザクールを交互に見る。


「お前かぁ、うちのお昼ご飯をこんな目にした奴はぁ!」


 ルシルは手を下に向けて海神の奔流(ウォーターバースト)を噴射、その水流で一気にリザクールと同じ屋根に飛び乗った。


「やってくれたな小娘っ!」

「お黙りなさいっ! あんたが何に固執しているのかなんて私には関係ないっ! Nランクスキル雷の矢(ライトニングアロー)!」


 ルシルの指先から電撃が無数に発生してリザクールに向かって飛び出す。電撃は軌道を揺らしながらそれでもほぼ真っ直ぐにリザクールを狙う。


「くそっ」


 リザクールはマントを翻し宙に浮く。


「そ、空を飛んだっ!?」


 跳躍ではなくふわりと浮かび上がるような動きに俺は思わず声を出してしまった。ルシルの放った電撃はそのまま遠くへと飛んで行ってしまう。


「よくも人間め、薄汚いコボルトを匿いおって!」


 リザクールは歯噛みをして俺たちを見下ろす。

 宙に浮いたままのリザクールがマントを広げると、そこには無数のネズミコウモリがぶら下がって羽を休めていた。


「行けっ、我が眷属けんぞくよっ!」


 コウモリが一斉に羽ばたく様を見て、俺はつい独り言を漏らした。


「出たな晩飯」

「えっ!?」


 ルシルとリザクール、二人とも俺の方を見る。

 あれ? 俺なんか変な事言ったか?


「ともかくだ! Sランクスキル発動、重筋属凝縮マッスルブーストっ! 俺の跳躍力を見ろっ!」


 俺もルシルたちと同じように屋根へと跳び乗った。俺の強化された脚力であれば平屋の家くらい簡単に跳べる高さだ。


「なっ、なんなんだこいつらっ、辺境に住むただの人間風情がっ!」


 リザクールは空中でふらふらと安定しない動きをする。かなり動揺しているみたいだな。


「ふっ、確かに俺たちは辺境に住まってはいるが、お前の考えこそが偏狭だな」

「なんだとっ!」

「お前は知らないだろうから教えてやろう。俺たちは当代の者ではないが、それでも勇者と魔王だからな」

「なにぃっ!?」


 あからさまに挙動がおかしいリザクール。


「侮るなよ、中途半端な吸血コウモリめ」


 俺は手にしたナイフを宙に浮かぶリザクールへと向けた。


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