また屋根が
ロイヤが働き出してからいきなり生活様式が変わった。石を組み上げただけの小屋は俺が屋根を吹き飛ばしたせいで、もはや住むに値しないただの壁の囲いとなっている。地下室だけは無事に使えるのだがな。
それよりも、だ。ロイヤが建てた三軒の家、これは木造なのだが基礎からしてしっかりしていて建物としても立派なのだ。それにところどころ細やかな装飾が施されている。あの短時間にしてこの出来栄えだ。
「見事だ……。ロイヤの建てた家に比べれば俺の小屋はただの石の塊に等しいだろう」
「ゼロ、よく私たちあの小屋で過ごせたよね」
「ま、まあ、生きる分には雨風が防げたからな、最低限度の需要は満たしている」
うん、俺は自分の言に自信を持つべきだ。言っている事は間違っていない。正しいとは言わないが。
「だがロイヤのお陰で、ほら!」
俺は家の中にある設備の数々を見る。
一軒目は玄関を開けると中央ホールが食堂になっていて、テーブルや椅子が並んでいた。奥には厨房があってかまどや水場が用意されている。
「このかまどは外から見えていた煙突につながっているし、炊事場は井戸から水が引けるようになっている。それにこの食堂の家具!
テーブルは大きすぎずそれでいて三人であれば十分な広さ、椅子も座り心地がよくていつまでもここにいたくなるような出来だ。燭台の炎がまたゆったりとした空間を演出している。ああ、旨そうな匂いがする錯覚に陥りそうだ!」
「ゼロ、スープできているよ?」
本当に旨そうな匂いがしていたのか。勘違いじゃなくてよかったぞ。
「あ、ああ、そうだな食事にしようかな。こんな立派な家をありがとうなロイヤ」
「うん!」
ロイヤは椅子に座りながらも尻尾をパタパタしていた。尻尾が邪魔にならない作りになっているなんて、そこは流石にコボルトらしいな。
俺は説明を一軒目で中止して、食事を優先してしまった。
「それじゃあ私がスープを持っていくからゼロは地下の貯蔵庫から塩漬け肉を持ってきて。後はそこにある日持ちのする黒パンを食べましょう」
「ああ、ちょっと待っててな。えっとナイフナイフ……っと、お、ありがとう」
俺はロイヤがとってくれたナイフを受け取る。その時に頭をなでなでしてやると、もっと尻尾を振って喜んでいた。
「よし、熟成した旨いところを持ってくるからな」
「は~い」
昨日さばいた鹿肉はまだ若いからな、じっくり熟成した猪の塩漬け肉を持っていくとするか。これをちょっと火で炙ると油が溶けて香ばしい匂いと一緒に食欲をそそるんだ。
鹿よりも猪の方が油にコクがあるような気もする。鹿は少しあっさりしているんだよな。その分肉の臭みも鹿肉の方が薄い感じもするが。
「さてと。地下室は石の小屋しかないから……なにっ!?」
俺が食堂にしている家を出たところだった。
「家が、屋根が燃えている!?」
ロイヤが建ててくれた家の屋根が激しく燃え上がっていた。俺が今出てきた家だ。ルシルはもう調理はしておらず、という事は火の出る物はないはず。
「ルシル! 大丈夫かぁ!」
俺の大声は家の焼ける音でかき消されてしまったのだろうか、ルシルからの返事がない。
「ルシル!」
『大丈夫、こっちは平気』
この頭に直接語り来る言葉。思念伝達か。
「……そうか」
きっと様子を見る事ができるなら、ルシルはうなずいて肯定している事だろう。
「それにしても、折角出来た家を!」
何者かの気配を感じてその方向へ振り返る。もう一軒の家の屋根に、昨夜倒したはずのコウモリのようなマントの男がいた。
「どうでもいいが高いところが好きなんだなあお前」
「コウモリを操る特性上、外だと都合がよくってな」
マント男は小さな火球をいくつも建てたばかりの家に投げつける。