家具屋の娘が本気出す
いつの間にか寝ていた。夜明けまで起きていて食事をしたら眠気に襲われたようだな。
どうやら周りが騒がしいというか、うるさい。物を切る音だったり何かを叩くような音だったり。
「ん? 何をしているんだ……」
気が付いたら小屋の脇のベンチで横になっていた。目を開けると明るい昼の日差しが飛び込んで来る。
手のひらを空に向けながら眩しさに慣れるまで目をかばう。徐々に視界が鮮明になってきた。
「え、おわっ!?」
「見て見てゼロ、すごいんだよ~」
嬉しそうに駆け寄ってくるルシル。その奥には木? いや、木材でできた家か!?
「あ、ゼロちゃん起きたなん?」
俺の事を見ながらもロイヤは両手を宙に掲げてスキルを使っているのだろうか、木材を空中で手を使わずに組み立てていた。
「物体の空中浮遊か、すごいスキルを持っているんだな」
「そうかなん? ロイヤは昔から使えていたのなん」
「へぇ、それはすごいじゃないか。ルシルが驚くのも無理はないよな」
俺が感心していると、ルシルもそれに合わせてくる。
「そうだよねえ! ゼロがちょっとうとうとしている間に、もう木の家ができているんだよ!」
「ああすごいな、こんな短時間で家一軒……えっ!?」
俺たちが今まで住んでいた石でできた小屋の壁で見えなかったが、壁の奥にも木の家が見えた。
「え、三軒も建てたのか!?」
あまりにもすごすぎだろう。俺が寝ていた時間なんて、夜明けから昼くらいだぞ。そんな短時間にこんなにも家を建ててしまうなんて!
「でもなぜ三軒なんだ? 一人一軒みたいな感じか?」
「あー、どうなんだろうね。ねえロイヤちゃん、そういえばなんで家を三軒も建てたのかな」
ロイヤは三軒目の家を建てながら余裕で質問に答えてくれた。
「ロイヤはこの大きさの家ならスキルで建てられるのなん。でも、これ以上大きくなっちゃうとロイヤのスキルじゃランクが足りなくて建てられないのなん」
「ほう、そうか。なるほどな。効率のいいスキルの発動なら、短時間でこんなに建てられるという事か。それにしても……」
俺が唖然としている中で、ロイヤが三軒目の玄関にドアを取り付けた。
「はい、完成だなん!」
「おー」
俺とルシルは素直に拍手を贈る。これなら一人一軒でもいいかもしれないな。それか用途別に使うとかな。食堂用と寝室用とで分けるとか、作業用に一軒使うかとか。
「考えると夢が膨らむなあ。やりたい事がいろいろ出てくるよ」
「そうだねえ。家具も作ってくれているし、ロイヤちゃんはいっぱい作ってくれるね」
「ああ、急に文化レベルが上がったような気がするよ」
「うんうん。じゃあさゼロ……」
う、またこのルシルのトロンとした目。
「私たちも何か作ろうよ、ね?」
「おいおい、まだ日も高いぞ。それに今はロイヤもいる事だし……あれは夜の営みと言うか……」
ちょっと言い淀んでいる俺にルシルの小悪魔的な笑顔が迫る。
「あらそう? 私が言っているのはお昼ご飯の事なんだけど。何をそんなに慌てているのかしらね?」
うっく、いやまあなんだ、えっと……。
「冗談よ。ゼロ」
ルシルは俺の頬に軽く口づけをすると、後片付けを始めているロイヤを手伝いに行った。