起き抜けの一杯
結局徹夜をしてしまった。ネズミコウモリは小さくて手足が入り組んでいるから皮を剥くのが大変だった。最後の方は内臓を取って火の矢で表面の体毛を焼いて、ぶつ切りにした状態でスープの具に使う。結構これはいいダシが取れた。
「ルシルたちには慣れてもらうか、それとも上澄みだけを使うかな~。スープだけだとちょっと上品に思えるから面白いよな。肉自体は野趣あふれると言うか、少し癖があるけど」
草原は食料が豊富にある場所じゃないからな、こうした肉類は貴重だったりするんだよ。
「あれ~、ゼロ寝てないの?」
ルシルが薄手の毛布を身体に巻いて寝ぼけまなこをこすりながらやってきた。
「起きたのかルシル」
「うん。結構すっきり寝られた気がする」
大きく両手を上げて背伸びをしている。朝の涼しい空気を胸いっぱいに取り込んで、また活力にするのだろう。
俺も深呼吸をしたつもりが、あくびに変わっていた。
「天井がないのも野営みたいでいいよね」
「野宿じゃないだけマシだろ?」
「朝早く目が覚めちゃうよ」
「かもな」
そんな他愛のない会話も日常のワンシーンだ。
「ごった煮だけど、スープだけでも飲むか? 朝は軽めがいいだろう」
「うんありがと。へぇ、いい匂いがすると思ったらこれかあ」
「昨日の夜にネズミコウモリがたくさん捕れてな。今日はそのガラでスープを取ってみた」
「そうなんだ~。こんな眷属だったらいっぱい持ってきて欲しいね」
ルシルはダシを取った後のガラをひとつまみすると、骨に付いていた肉片を綺麗にかじり取っていた。
「ん、お肉もそんな硬くないし、ちょっと癖があるけど獣臭さは薄まっているというか」
「それダシを取った奴だからほとんど味がないだろ? こっちの奴を食えよ、串焼きにしておいた」
「うん、狙ってた」
屈託のない笑顔で俺の差し出す串焼きを受け取る。
「あ、ほんとだ! こっちは味が濃いね。肉質もしっかりしているし、この臭み取りは……庭のハーブ?」
「正解。成長が早いハーブを何種類か使ってみた。収穫ができるっていいよなあ」
「そうだねえ、自給自足だねえ」
ルシルは次々と串焼き肉を頬張っていた。
「ほわぁ、おはようゼロちゃん、ルシルちゃん……」
「お、腹ぺこの眠り姫が現れたな?」
小屋だった石の塀から出てきたのはロイヤだ。こいつもまた眠そうな顔をしながらなぜか手には器とスプーンがあった。
「おいしそうなん……」
「匂いにつられて目が覚めたな?」
「えへへ~」
ロイヤは犬っぽい耳をヒクヒクさせて喜んでいる。コボルトは匂いにも敏感だったりするのだろうか。
「ロイヤもこっちに来いよ。朝飯って程じゃないがスープなら旨いのができているぞ」
「はわわ~、やったぁ!」
尻尾もパタつかせてロイヤがやってくる。味は俺とルシルが旨いと思ったからな、食えない程まずくはないだろう。
「えへ~、じゃあいただきますなん!」
小躍りして器に盛られたスープと串焼き肉を受け取る。
近くの切り株にちょこんと座って、まずはスープに口を付けた。
「ほにゃ~、あったまるなん……」
あの顔のゆるみよう。味に失敗はなかったようだ。
少しほっとするのと同時に、ようやく睡魔が俺に襲いかかってきた。