引き出された情報と仲間の行方
正気を失った兵士たちが泣きわめく。それはそうだろう、お互いの両腕がくっついてしまっているのだ。
「チュージ、お前の回復魔法はなかなか悪意があるな」
「えへへ、そんなに褒められると照れますな」
いやそこは褒めてないのだが。どちらかと言うと流石に引いてしまうところだ。
でも俺たちの家を破壊した奴らの一味だと思うと、少しはよくやったと思うところもある。
「これでは話が聞けないな。平静なる精神みたいな魔法は使えるか?」
「はい、Nランクの神聖魔法でしたらそこそこ覚えておりますよ」
「なら頼む。混乱解除が使えればそれでもいいのだが、Rランクはゴブリンプリーストだとまだ覚えないだろう?」
「すいません、ビショップまで成長すれば覚えられるんですけどね、まだおいらには使えねえんです」
「そうか無理を言って済まなかったな。こいつらが落ち着くように頼む」
「はい、もちろんでさ」
チュージはゴブリンプリーストの魔法を唱えて腕をつなげられた兵士たちの精神を落ち着かせる。
本来であれば戦闘前の緊張を解いたり不安を解消する程度の魔法だが、今は神官系の神聖魔法を使える者がチュージしかいないので仕方がない。
「ほあ……ふぅ」
「えへ、腕が、腕がくっついちゃってるよぉ……えへへ……」
兵士たちは状況を理解していないだろうが冷静さは取り戻したようだった。魔法で無理矢理にだが泣きわめくことはなくなった。
「お前たちに聞くが、ここにいた者たちはどうした。ここに住んでいた者たちだ」
「住んでいた~? 本隊が来た時にはもう誰もいなかったって聞いたぞ~」
「戦闘も無かったって言ってたけど、先遣隊でジャイアントがいたらしいっていう話題にはなってたなー。なんでも一方的に叩き潰した、とかって騒いでいた奴がいた」
「叩き潰しただって!」
「ああ、何かの見せしめにするとかで、連れて行ったらしいなあ。俺も見たかったぜ~」
ヒルジャイアントが連れて行かれたというのは本当なのか。俺は情報を早く引き出したい衝動に駆られるが兵士の胸ぐらをつかもうとした俺の手をルシルが止める。
「ゼロ」
「判った。おい、そのジャイアントはどこに行った?」
兵士たちは悩んだり考えたりしているようだが、どうやら記憶には無い様子だった。
「さあねえ、ジャイアントを連れて行ったとしても本隊か先遣隊の奴らだし、俺たち後続の兵士には噂しか来ないからなあ」
「俺もジャイアント見たかったぜ~」
「商人はいたか、荷馬車はあったか?」
「さあ、それこそ聞いてないね、商人の荷馬車なんてあったら皆が漁ってるわなー」
「ひゃはは、違いねぇ!」
「そうか」
どうやら後続の、それもこうして落ちこぼれている兵士たちにはそれ程情報が伝わっていないらしい。だがそれでも商人の荷馬車の話が出ていないという事は、シルヴィアとカインは無事である可能性が高い。
それにガレイの町から護衛として付けられた警備隊の精鋭たちがいたとすれば、うまく身を隠しているのかもしれない。
「ねえ、この腕どうしたらいいのかな?」
「そうだよ、ずっとくっついているのは嫌だなあ」
「なんだよ、俺とくっついてるのが嫌だってのか? 俺だって嫌だけどさ」
「じゃあ離せよ」
「くっついてんだから離せないだろ」
兵士たちがつなぎ合わされた腕で騒ぎ立て始めた。
「ゼロ様、よかったらおいらが後は引き受けましょうかい?」
「ああ、そうしてくれるか」
「はい、それじゃあ、魔法解除!」
チュージが魔法を唱えると、さっきかけた回復魔法の効果が解除される。兵士たちの腕がそれぞれ切断された状態に戻った。
「ぎゃぁぁ!」
「痛い痛い痛い!」
回復が無かった事にされ、腕から血を噴き出した兵士たちは事切れる。
「シルヴィアたちがどこにいるか確認しよう。それと王国の兵たちが他にいないかも調べるとするか」
ルシルを通じてゴブリンたちにも協力を仰ぐ。
目に見える範囲には痕跡が無いとすると、森の奥に隠れているかもしれない。
俺は日が落ちてきて暗くなり始めた森を見る。
「無事でいてくれよ」