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吹き飛べ!

 結局は全方位対応になるわけだ。

 正面からは大きな火球を上に掲げて立っているマント男が小屋の屋根に乗って火の点いたコウモリを放ってくる。横や後ろからは血を吸うコウモリが夜の影からひっそりと俺の身体を狙う。


「こりゃあ帯剣しておくべきだったかな……」


 旅に出ている時は肌身離さず剣を持っていたが、流石に自分の家にいる間は気が抜けてしまっていたのか。

 こういうのもあれだろうか、常に剣と防具を装備していない奴は勇者失格だったりするのだろうかね。


「ほほほう、徒手空拳でどこまで行けると思っているのかねえ?」

「さてな、お前を退けるくらいならできると思うがな」

「減らず口をっ!」


 マント男が怒りと共に大きな火球を下に、小屋の屋根に叩き付けようとした。


「なっ……」


 小屋の中ではロイヤが寝ている。屋根が崩れてしまっては無傷ではいられないだろう。それに小屋自体が崩壊してしまっては脇のベンチで横になっているルシルも危ない。円の聖櫃(サークルコフィン)で守ってはいるもののあの火球は魔力で作られたものだろうからな。


「消えてなくなれ……」


 マント男が火球を屋根に落とそうとした瞬間。


「させるかっ! SSSランクスキル発動! 地獄の骸爆(ヘルズ・バースト)っ! お前こそふきとべっ!」


 俺は両手を前に出しマント男に向けて爆発する炎を放つ。周りにいるコウモリどもも巻き込みながらマント男を狙う。


「なにっ!?」


 男の持っていた火球よりも更に強力な爆圧が小屋の屋根ごと包み込む。


「ばっ、馬鹿なぁっ!」


 マント男の叫び声が爆風にかき消される。


「そのまま消えてなくなれっ!」


 俺の放った炎は渦を巻いて屋根を、そしてその先の夜の空へと突き抜けていく。巻き込まれたコウモリどもも一緒に炎の渦に飲み込まれていった。


「ぐっ、くそぉっ!」


 恨み言もまとめて夜の闇へと消えていく。


「とっさの事だったから……とはいえ」


 小屋は屋根が綺麗さっぱり吹き飛んでいた。


「ちょっと、何があったのよ……って、あっ!」


 流石にこのドタバタでルシルも起きてきたが、小屋の惨状に驚きの声を上げる。

 そりゃそうだよなあ。


「ゼロ……」

「あ、ああ」

「よく判んないけど、これはありがとうと言っておくべき、かな?」


 ルシル~。察してくれているのか!?


「屋根、吹っ飛ばしちゃった」

「別に寝ぼけてやったわけじゃないんでしょう?」


 俺は素直にうなずく。


「ゼロがここまでの事をやると言う事は、それなりの理由があってだと思うけど。大量に落ちているコウモリか何かの死骸を見れば、何となくね」

「ロイヤは大丈夫だったろうか」

「凶悪な熱線が吹き抜けたところだからね、焼け焦げていなければいいけど」

「そ、それは……」

「冗談よ」


 俺たちは屋根の無くなった小屋に入る。

 壁はところどころ焼けてくすぶっている場所もあったが、室内に延焼はしていないようだった。部分的には壁から上が消えている所もあるが、ロイヤの寝ていたベッドは……。


「無事、みたいね」


 ルシルの言葉にほっとして息を吐き出す。


「ん、んあ? 朝なん?」


 寝ぼけながら目をこすってロイヤが起き上がる。


「ほわっ、な、部屋が……外!? ロイヤ外で寝てた!?」

「目が覚めたか。さてと、どこから話をしようかな……」

「ゼロちゃん、ルシルちゃん、お空! 見て見て、寝ながらお星が見えるなん!」


 ロイヤは屈託のない笑顔で空を眺めていた。


「そうだな、そうかもな」


 俺もロイヤにつられて空を眺める。

 空は暗く、月と星だけがその世界の住人であるかのようだった。

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