小型の吸血コウモリ
逆光になっているから屋根の上に立っている奴の人相風体はよく判らない。こいつもネズミコウモリと同じようなマントを羽織っている。
「くっふふふ……」
屋根の上の男は不敵に笑う。
癇に障る高温のかすれた声が気になるが、仕方がない。声どころか存在自体も不愉快なものがあるからな。
「おいお前、その高いところからいいご身分だな」
皮肉たっぷりに言ってやる。
俺は寄ってくるコウモリどもを手刀で払いつつ、それでも視線は屋根の上の男に向けたままだ。
「ほうほう、これだけの眷属をものともしないで、素晴らしい!」
「何が素晴らしいだ。そんな所で高みの見物などしていないで、お前も降りてきたらどうだ?」
「いや、我はまだ出番にあらず。それよりも我の眷属と戯れているがいい」
マントの男はそれで引き下がろうとするが、そう易々と逃がしてなるものか。
「まあそう言うなよ。客をもてなさなかったなんて知れたら、後で俺が怒られてしまうからな。Rランクスキル発動、雷光の槍っ! 周りをうろつく連中よ、雷撃に貫かれて果てろっ!」
俺の両手から無数の雷撃が放たれる。雷撃といっても針のように固まった光の周りに稲光がまとわりついているようなものだ。肌を雷がなでるのではなく、身体を貫く力と勢いを持った雷撃だ。
「遊びはここまでだ」
俺の放った無数の雷撃がコウモリどもを次々と撃ち落としていく。スキルを使えばどうという事はない。剣を持っていればもう少し近寄るコウモリは撃退できたかもしれないが。
だがまあ、結果としては俺に傷を負わせる事もなくコウモリたちは次々と落ちていった。
「ほうほう、やりおるなあ。だがこれしき、我の眷属は無尽蔵! どちらが先に音をあげるかが楽しみだったりするのだが……ほうほう、これではきりがなさそうか……。まあいいだろう、少し趣向を変えるとしよう」
マント男は両手を空に掲げてその手を振り回す。
「夜の住人になってから太陽の光が恋しくてなあ……。これでも受け取るがよい」
両手を広げた先に巨大な火球が現れた。深夜の空には月や星が瞬いていたりもするのだが、男の作る火球で辺りが明るくなり、空の星々も光が薄くなっているようにも思える。
「そんな火球でどうしようって言うんだ」
「ほほほう。さてどうかねえ」
男が両手を天に掲げてその間に大きな火球が現れた。
そしてその火球に、コウモリどもがい一斉に飛びかかる。
「こちらに向かってではないのか?」
「そう慌てる事はないぞう……」
それまで取れていなかったコウモリどもは統制が、この火球が出てからというもの、まったく別の物となった。バラバラに俺を襲っていたような奴らが団体の動きをし始めている。
だが、それも火球に飛び込むまで、だった。
コウモリが一匹二匹と火球に飛び込んでいき、火の点いた身体で俺に向かってくるんだ。もうこの時点では、元のバラバラ状態だ。
「なるほど、その大火球が出現してネズミコウモリはその火の中に飛び込んでいく、か。一度火が点いてしまえば……」
「ほほほう、面白いでしょう? さあお行きなさい、我の可愛い眷属どもよっ!」
それでも俺の迎撃手段は変わらない。
その質と量を高めるのだ。
「いいだろう、相手をしてやる! Rランクスキル発動、雷光の槍っ!」
火だるまで向かってくるネズミコウモリの対処は変わらずだ。ただ相手がまとまってくるから、それに合わせて俺も電撃の指向性を強めて正面から叩き込んでやる!
「お、おほぅ!」
マント男は驚きというか落胆というか、がっかりとした様子で肩を落としていた。俺はそんな様子のマント男に追い打ちを掛ける。
「手数なら負けないからな、ただ火が点いただけでは俺に勝てないぜ!」
しゃべりながらも火の点いたネズミコウモリは俺が手刀で打ち落としていく。
これくらいの変化であれば俺の方でも調整はどうにでもできる。火では常時発動スキルの温度変化無効がある俺に傷を負わせる事はできない。
火の点いた塊が飛んできたところで俺のやる事は変わらない訳だ。
「……おっ!?」
と思ったらそうではない奴もいたのか。
俺は足首の痛みで振り返る。
「しまったな、こいつらこれでも全方位攻撃をしてくると言う事か」
俺の足首やふくらはぎなどに、俺の攻撃をかいくぐってきた奴が貼り付いている。足を振り払えば落ちる程度なのだが……。
「正面、火の点いたコウモリそのものが囮だったとはな」
火球を作ったりなんだり大袈裟で目立つ動きに意識が持って行かれたか。俺の視線から逃れつつ俺の足に噛みつくとは。たいしたものだと賞賛してもいいくらいだ。
「だがな、どこを経由したとしても、こいつらの命が尽きる時間はそれ程差がないようにしてやるぞ」
俺の血を吸っていたコウモリを引き剥がして踏み潰す。いくぶん血を吸われたようだが……まあ今の所は大丈夫だろう。
それよりも今はどう反撃をするかが、それを考えてみるか。