ちょっと早い夕飯
「驚いたな……」
俺の口からはそれしか出なかった。
ロイヤが燻製機を組み上げたのはすごかったが、それにも増してベッドも作ってしまった。いくらスキル持ちとはいえ、こんなに短時間で家具を作ってしまうとは。
「ほんと、すごいね」
ルシルも感心する事しきりだ。
ロイヤは鼻高々、とは言わないまでも恥ずかしそうに、それでいて自慢気に俺たちをチラチラ見る。
「最近いろいろ物が増えてね、置き場所に困っていたんだけど……」
ルシルはこういう時チャンスを見逃さないよな。
「戸棚とか食器棚とか、作れるかな?」
「うん!」
即答か。
「あ、でももう使える木がないだろう? 少し距離はあるが森に行って木を伐ってこなければ」
「それなら明日にしようよゼロ。これからだと森へ着くまでに夜になっちゃうよ」
「いやあ、俺たちの足で行けばそんなにはかからないだろう?」
「だってロイヤもいるよ?」
う~ん、そうなんだが。ロイヤは小屋に置いていけばいいだろうに。いや待てよ……。
「もしかして、ルシルもう寝たいのか?」
「えっ!?」
なぜギクッとする。
そうか、新しいベッドができてそれで寝てみたいって事だな。まあ解らないでもないが。
「まあそうだな、また明日にしようか。昼を過ぎたら食事の支度だけでも時間はあっという間に過ぎてしまうからな」
「そうそう、そうしようよ!」
まだ日は高いが、今日はいろいろあったし一旦落ち着くためにも飯と寝支度を始めようか。
「そうだな、判ったよ。じゃあ今日の晩飯はそうそう献立も変わらないが、早熟芋のサラダと鹿肉のソテーにしよう。それとベッドはロイヤに使わせるんだぞ」
「え~! 私が使いたかったのに」
「そう言うな、ロイヤはお客さんなんだ。それにロイヤが作ってくれたんだからな、そんな職人さんに地べたで寝かせるわけにもいかないだろう?」
「そう、だよね……。しょうがないから今日はロイヤと一緒に寝る!」
おいっ! 結局ベッドで寝たいのかっ。
まあこうなったらごちゃごちゃ言うのもなんだからな。
「判った判った。じゃあ俺も一緒に三人で……」
「駄目だよ、ゼロが一緒だったら重くて壊れちゃう!」
「どういう事だよっ!」
そんな俺たちのやりとりを見ていたロイヤは、なんだか楽しそうに尻尾を振っていた。
「よし、それならちょっと早いけど夕飯の支度を始めようか」
「うん、じゃあ火を付けるよ。Rランクスキル永久の火口箱」
ルシルがかまどに火を入れる。薄く平たい石をかまどの上に乗せて、その上に鹿から採った油を敷く。
「熱した油が焦げる匂い。美味しそう……」
小屋の中に油の弾ける音と香ばしい匂いが広がる。
「ロイヤは調理器具とかも作れたりするのか?」
「ううん、ロイヤは家具なら作れるけど、小物の道具は作れないなん」
「そうなのか。鍋とかあったら便利かな、って思ったんだけど。なんせ俺たち、着の身着のままここで暮らし始めたからさ、生活用品なんてまったく考えていなかったから」
「そうなん?」
「ああ、そうなんだよ」
油の多い腹の肉を小分けにして熱く焼けた石の上に置くと、肉の焼ける旨そうな匂いが鼻をくすぐる。
ルシルが様子を見ながら薪をくべて火力を調整してくれていた。
「焼き加減はどうする? 要望に応えるぞ」
「そうねえ、私は半生がいいな。少し血が滴るくらい、でも外側は火が通っているくらい」
「判った。ルシルは半生な。ロイヤはどうする? ちょい焼きか、半生か、よく焼きか。どんな感じが好みだ?」
そういえばコボルトは火を使った料理なんてするんだろうか。文化がよく判らないが、どうなんだろう。
「ロイヤ、生でいいなん」
「え、焼かないのか?」
「うん、生で……それかくんせい? あの木の匂いがする肉がいいなん」
「ああそうか、もう燻製肉はないからなあ……。あ!」
俺は火の番をルシルに任せて小屋の外に出る。
「あった!」
外に放置していた燻製機の残骸を持ってきた。
「どうしたのゼロ」
「この燻製機の内側に付いている水滴あるだろ?」
「うん」
「これを少しの水で溶いて、焼いている肉に香り付け……」
燻製の濃縮された匂いが一気に鼻を刺激する。
「うわ、すごいいい香り!」
「くんせいなん!」
ルシルもロイヤも大喜びだ。
「ロイヤはちょい焼き、燻製の香りを付けて、なんちゃって燻製だけど味は近くなったと思うぞ」
「わぁ! 美味しそうなん!」
廃品だったけどこういった使い方もあるんだな。火を通しているから腹を下す事もないだろう。
こうしてかぐわしい香りが充満する中、俺たちは早い夕飯を始めたのだった。