俺の労力、少女の能力
ロイヤが燻製機を直すと言う。自分が壊したという事もあるだろうが、一宿一飯の恩に報いるため、という気持ちもあるのだろう。
「だがなあロイヤ、言っちゃあ悪いが小さい女の子が家具を作るとなったら大変だろう?」
「そんな事ないなん。ロイヤ、工作得意なん」
「そうか、だったら任せるけど。道具とか必要な物はあるか? 刃物は……剣とせいぜい斧くらいしかないが」
「ううん、これくらいならナイフがあれば大丈夫なん」
「そ、そうか」
ロイヤがそう言うものだから、とにかくやり方は彼女に任せてみよう。
「じゃあ俺は部屋の片付けと、あとは材料になるやつとしたら……薪に使おうとしていた木が何本か伐ってきたのあったな」
俺は小屋の脇に転がしておいた丸太を持っていく。
「まだ皮も付いていて使えるかどうか判らないけど」
「大丈夫なん!」
ロイヤが集中してナイフに力を込める。
「おおっ」
ロイヤとナイフが光って、木を伐っただけの物が、枝を打ち払われ皮を剥がされ、厚みのある板に切り裂かれていく。
あっという間に長い木の板が何枚もできあがっていた。
「生木だと作った後で反ったり割れたりするなん。だから乾燥させるなん」
「乾燥?」
並べられた木の板にロイヤが手を当てていく。するとどうだ、木の表面から湯気が立って一回り縮んだようにも見える。
「急速に乾燥させたから中の組織も壊さずに済むなん」
「なんだか難しい話だな」
「家具屋の娘としては常識なん」
「ほう、お前の家は家具屋なのか。ただ売るだけじゃなく自分でも作れるなんてな」
「へへ~」
顔を赤らめながらロイヤが次々と木材を作っていく。
「次はこれをまた切るのん。薄い板と角材にするのん」
「ほほう……」
俺はもう感心するしかなかった。
子供らしからぬ手さばきというか、丁寧だが早い。角を少しだけ削ったり溝を掘ったりして形を整えていく。見る間に箱の形を作り上げていく。
これがさっきまで丸太の状態だった木だ。それがしっかりとした木の箱になっている。
「ゼロが作った時よりしっかりした物ができたね」
「あ、ああ。俺が作った時は隙間がいっぱいあって煙がその隙間から出てきていたけどな、これは煙どころか光だって通らないくらいぴったりくっついているぞ。凄いな……」
職人というとドワーフを思い浮かべる。金属加工ならお手のものだったりするし、石工としても優秀だ。木彫りの彫刻も素晴らしいものがあったな。
「なあロイヤ、コボルトにも木工職人というのがあるのか?」
「う~ん、もっこーってのがロイヤ解らないなん。でもロイヤのおうちは家具なら何でも作れるなん」
「そうなのか」
「うん! 人間にも職人はいるなん? コボルトも同じなん」
言われてみれば、職人はドワーフだけって訳じゃないからな。
コボルトでも手先の器用な者はいるだろうし、森に住む種族であれば工芸品や芸術品の作成に長けていたりしてもおかしくはない、かな。
「そういえばさっき工作は得意とかなんとか言っていたが、スキルを持っているのか?」
「ロイヤは工作のスキルならRランクを持っているなん。でも木を割ったり乾燥をやったりするのは別のスキルなん。組み立ての所ではスキルを使っていないなん」
「え、そうなのか!? あの光はスキルの発動かなとは思ったけど、組み立ては自分の能力だけで……それでこの出来栄え……」
俺はできあがった燻製機をしげしげと眺める。
「普通にゼロより器用だって事だよね」
「ぐむぅ」
否定は出来ない。確かに俺より器用だし、俺がクラフトのスキルを使ってもここまでは綺麗に作れない。
「材料があれば、ベッドも作れるなん」
「本当か!?」
このところ藁を詰め込んだ敷きマットで俺たち過ごしていたからな、きちんとした寝床なんていつぶりだろうか。
だが、そんな期待もこの女の子に託してしまっていいのだろうか。年長者として、それはどうかと思うんだがなあ……。
ロイヤは角材と板を持ってきて組み立てようとする。
「これはカッシーの木と言って家具にも使える木なのなん。とっても堅いのなん」
「そうなのか。木の種類までは気にしていなかったからなあ」
「それに木だと少しの歪みなら木自体が吸収してくれるから、眠りも快適なん」
ロイヤは得意げに説明しながら、これまた次々を木を組み上げていく。
これはもう立派な家具職人だな。