質の低い家具
突然やってきたコボルトの女の子ロイヤ。耳を見なかったら普通の女の子なのになあ。
敷きマットに寝かせているロイヤを見ながら俺とルシルはテーブルで食事をしていた。
「起きないねあの子」
「かなり体力的に参っていたみたいだからな。でもまあ少しそっとしておいてやろう」
「そうね。それにしてもこの平原をこんな小さな女の子が一人でって、おかしいよね」
「ああ……」
いろいろと考えを巡らせると、可能性はいくらでも広がってしまう。いい方向にも悪い方向にもだ。
「コボルト、この辺りに住んでいたかな」
ルシルの言葉はもっともだ。コボルトは亜人種として知られている種族で森や洞窟に数人から数十人の集団で暮らしている事が多い。人間の倫理はあまり通用しないから旅人が襲われたりする事もある。
「ロイヤは人語も話せたしある程度人間社会での生活か教育はなされているようにも見える。俺たちの国でコボルトの集落ってあったっけ?」
「ゴブリンなら城下町に住んでいる者たちもいたけど。チュージとか」
「あれはゴブリンプリーストだったから学があったんだろう。人語を解すると言うのはそんなにいないからなあ」
「そうよね。チュージ、元気かなあ。ボッシュたちも」
ゴブリンをまとめていたゴブリンプリーストのチュージや、ヒルジャイアントのボッシュたち。昔、俺たちの開拓を手伝ってくれたりもしたな。
「ヒルジャイアントたちがいてくれたら家や小屋はもっと立派な物ができていただろうなあ」
「連れてくる?」
ルシルの問いに俺は首を横に振る。
「それじゃあ俺たちが隠遁生活をしている意味が無い。俺たちはできる範囲の事でできるだけの生活をしていればいいんだ。仲間たちに会いたくなったらこちらから出向けばいいさ」
「そうね……。いいわ、地下室を掘り下げていって巨大迷宮を造ってあげるから。そうしたら部屋には事欠かないでしょ?」
「流石は魔王、発想が力技だな」
「えへへ」
ルシルは笑っているけど、やるとなったらそれができるだろうからな。いざとなったら頼りにさせてもらおうかな。
「それでも家具はどうしようもないけどね。私も工作のスキル持っていないし」
「できは悪くても俺が作っていく物くらいしかないからなあ」
俺たちは食事を終えて外の洗い場へ食器を片付けに行く。井戸の近くに棚を作って洗った食器を置けるようにしている。
「燻製機、壊れちゃったね」
「元々頑丈には作れないから仕方がないさ。少し経験を積んで工作のスキルをレベルアップさせていければいいんだがなあ」
「気長にやろうよ」
「だな」
その時、小屋の方から視線を感じる。耳の奥に痛みは出ていないから敵感知ではないようだ。俺の命を狙うような殺意の視線ではない。
それに小屋の中はロイヤしかいないからな。
「あの、ね。その箱、ロイヤに直させてほしいのなん……」
おずおずと俺たちを見るロイヤ。
「起き上がって大丈夫なのか? もう少し寝ていてもいいんだぞ」
俺の呼びかけにも大袈裟なくらいに首を振る。
「だ、大丈夫なん。ロイヤもう元気なん」
「そうか。でも気にしなくていいぞ。燻製機は俺が直すからな」
「くん……せいき?」
「そうだ。木っ端を使って燻してやれば味が凝縮して旨さが濃くなる。そして乾燥するから日持ちもいい。食べきれない程の食料がある時に使える道具だが」
俺は頭をかきながら照れ笑いでごまかす。
「俺はあまり工作が得意じゃないからなあ。まったくできないって訳じゃないんだけどさ」
「工作なら、ロイヤ、得意なん!」
「お、そうなのか? それは頼もしいな。起きて大丈夫ならちょっとこっちに来て燻製機を見てくれないか?」
「うん!」
ロイヤは元気に反応して尻尾をばたつかせていた。