有り物で済ませる生活
ひとまず寝っ転がしておくにはいかないからな、抱きかかえて小屋に連れて行く。
「軽いな……。コボルトの子供だからなのか、それとも痩せているからなのか……」
「どちらもありそうね。で、この子どうしようか」
「家にある寝具は一つしかないからなあ」
「寝具って、あの藁でできたマット?」
「ぐ、ぐむぅ……」
俺の工作は所詮Nランクだからな。頑張って木を伐ってベッドらしいものを作ってみたんだが、俺が乗った瞬間に真ん中から折れてしまった。
だから高さのあるベッドじゃなくて、袋の中に藁を詰め込むだけ詰め込んだものを敷きマットとして使っているんだ。
「ま、まあ寝かせるとしたらあれくらいしかないからな。少しチクチクするけど、まあ我慢してもらおう」
「仕方がないかあ」
そう言いながらもルシルは敷きマットを広げて中の藁を慣らしてくれる。
俺はその敷きマットの上にロイヤを寝かせて、前に捕まえた熊の毛皮を掛けてやった。
「飢餓状態で飲み食いすると胃に負担がかかるからな、ゆるい飯でも作ってやるか」
「って言ってもうちには塩スープと芋がゆくらいしか作れないけどね」
「よく煮て柔らかくしてやるか」
ルシルが怪訝そうに俺の顔をのぞき込んでくる。
「それにしてもゼロがこんなに世話焼きをするなんてね」
「う~ん、俺も意外に思っているけど、アリアの事もあるからな、気になるって言うか、放って置けないって言うか」
「剣先向けていたけどね~」
「そう言うなよ。それに小さい女の子が行き倒れるなんてよっぽどだろうから……」
俺は鍋の中をかき混ぜながら味を調えた。
うちの鍋は野草だけじゃなくて早く育つハーブや葉物野菜を入れている。この小屋に住むようになってから畑も作っているんだが、時間のかかる野菜や穀物はまだ収穫できていない。
「野菜だけでも収穫できてよかったね」
「そうだな。今は早めに育つ野菜ができはじめていたから丁度よかったよ。食いつなぐにはぎりぎりかもしれないけど、俺の足で半日も行けば海も森もあるからな。その点この辺りは食に困らないし」
「そうね~。世捨て人みたいな生活するにも、食べていかなくちゃならないからね」
「だからといって、王都に行ったりするのもなあ。人との接触を極力少なくしようと思っているから、これくらいがいいんだと思うよ、距離感も時間的な間隔からも」
「それがゼロのやりたい事……のんびりした生活したかったって所だもんね」
それにルシルがいてくれるからこういう生活も楽しくできているんだ。それはとても感謝している。
「さっきの鹿肉も少し入れてみる? よく煮込めばホロホロに崩れて柔らかくなるよ」
「そうだな、ルシル持ってきてくれるか。それに肝を裏ごしして溶いておけば味にコクが出る」
「判った~」
他の人の世話をするというのも悪くないかな。元国王とか元魔王とかの立場を忘れて、のんびりした生活を過ごすっていうこの暮らしもな。
ちょっとした乱入者はあったけどさ。