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犬耳の少女

 見た目はごくごく普通の女の子。薄い栗色の髪を無造作に束ねて大きな目でこちらを見ている。短めのスカートと膝上まで隠れるニーソックス。上半身は動き易そうな丈の短いベストを着ていてヘソが見えていたり。

 そこまではちょっと可愛いくらいの幼い女の子なんだが、何より特徴的なのは大きな犬のような耳とこれまた大きなもふもふとした尻尾。


「わふん!」


 驚いた犬耳の女の子はスカートから飛び出している尻尾をお腹の方へと巻き付かせている。


「ゼロ……」

「あ、ああ」


 俺は剣をしまってしゃがむ。女の子と目線を合わせるためだ。


「火傷はしていないか? 燻製機、倒してしまったようだからな」

「あ、あふ……あう……」

「まあ少し落ち着け。残念ながら聖職者クラスのスキルは使えないからな……」


 女の子は尻餅をついた状態で燻製肉を口に咥えながら、怯えた目で俺たちを見る。


「まあいい、深呼吸をしてみろ」


 女の子は素直に俺が言った通りに深呼吸していた。


「怪我がなければいい。燻製肉が食べたかったんだな。いや、腹が減っていて匂いにつられて寄ってきたって所かな」

「ねえゼロ、お肉だけだと何だから、スープ持ってこようか」

「そうだな、まずは水を飲ませよう。井戸から汲んできてくれるか?」

「判った、ちょっと待っててね」


 あ、よくよく考えてみたら俺が行けばよかったか。ルシルの方が同性の扱いには適していたかもしれない。この様子じゃあ危険性はなさそうだからな。


「さてと。俺はゼロ、そして今水を汲みに行っているのがルシルだ。どうだ、話ができるか?」


 俺も腰を下ろして話をしてみる。座るという事はすぐに動けないという事でもある。愛の警戒を解くための一つの方法だ。


「あ、あの……」

「お。言葉が理解できるなら助かる」

「うん、ロイヤね、言葉解るなん……」

「そっか。ロイヤって言うんだな。よろしくなロイヤ」


 俺が右手を差し出すと、ロイヤと名乗った犬耳の少女は怯えたようにビクッと反応して縮こまる。


「そうか、いや気にしなくていいよ。お、ルシル。ありがとう」

「お水、持ってきたよ。はいどうぞ。少しこれを飲んで落ち着いて」


 ロイヤはルシルから大きめのコップを受け取って、なみなみと注がれた水を一気に飲み干す。


「おいおい、そんな急に飲んだら腹が痛くなるぞ」

「だ、だいじょ……ごほっ、げほっ!」

「ほらほら言わんこっちゃない」


 俺は小さな背中をゆっくりとさすってやる。徐々にだがロイヤは落ち着いてきたようだ。


「水も肉も好きにしていいが、少し横になるか? 小屋の中なら休めるところもあるからな」

「え……いいのかなん?」

「こうなったらしょうがないだろう。そのまま捨てておく訳にもいかないだろうし、なあルシル?」

「そうね、小さなお客さんね」


 だいたいここは草原のど真ん中で、森も海も俺の足で考えればそれ程遠すぎやしないが、こんな小さな女の子が歩いて渡るには広さが半端ないだろう。そんな中で見つけた小屋だ、軌跡に近いのだろう。


「ありがとう……遠くからいい匂いがしてきたからなん、つい……」

「ほう、匂いでってこの燻製か?」


 ロイヤが小さくうなずく。


「へぇ、すごいね。もしかしてロイヤちゃん……って呼んでいいかな。ロイヤちゃんはコボルトなのかな?」


 ルシルがロイヤに問いかける。コボルトかあ、あの犬っぽい要素を持った亜人だな。


「うん……。ロイヤ、コボルトのロイヤって言うのなん」

「それで鼻が利くのか、なるほどなあ」


 俺が反応する事には緊張の糸が切れたロイヤが倒れて小さな寝息を立てていた。

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