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焼け跡と回復魔法の使い方

 俺たちの目指す方向は合っていた。本拠地近くの街道に出た俺たちは家を建てていた丘を目指す。

 近付くにつれて焼けるにおいが強くなり、それに比例して不安が募っていく。


「シルヴィアたちは商売を終えて戻ったのだろうか。ドッシュたちヒルジャイアントの三人は無事だろうか」


 最悪の状況を想像しないようにしようと思うがうまくいかない。悪い方へ悪い方へと考えてしまう。


「大丈夫よゼロ、きっと皆ならうまく逃げてくれていると思うよ」

「そうだな、下手に刃向かったりしなければいいのだが」


 走る速度が自然と上がっていく。丘が見えて見慣れた石柱が建っている。俺たちはその丘を駆け上がって行った。


「家も何も……」


 俺たちが出て行った後、ドッシュたちは自分たちなりに家を建てたりかまどを造ったりしていたようだが、破壊された残骸だけがそこにあった。


「酷い、酷いよゼロ……」

「あそこに天幕があるぞ。俺たちの物ではないが……あの紋章は王国のか」


 俺が昔から知っているムサボール王国の紋章。俺を衛士として雇い、勇者として魔王討伐を命じ、魔王がいなくなった報酬として俺を解雇した王国。その紋章が掲げられている天幕に俺は近付いていく。

 天幕の中から男たちの声が聞こえてきた。


「ジャイアントがここにいたってんだから、珍しいお宝でもあるかと思ったのにな!」

「まったくだぜ、それに俺もジャイアントと戦ってみたかったぜ。あの馬鹿力だけの奴、ていうか力だけの馬鹿なんて俺の剣技で簡単に殺してやれたってのによ」

「わははは、お前の剣技でジャイアントが殺せるなら、俺は魔王でも殺せるっての!」


 天幕の中から下品な笑い声が響く。

 俺は天幕をつかみ一気に引っ張ると支えている支柱や綱が外れ、天幕全体が宙に飛び風に乗って焼け跡の上にかぶさるように落ちた。

 不意を突かれてこちらを見る兵士が二人。


「おいお前ら、剣技に自信があるようだが一つ手合わせしないか」


 俺が剣を抜いて二人の兵士に近付く。


「な、なんだこいつ、後ろにガキと……ゴブリン、だと!?」

「俺たちをムサボール王国の者と知っての事か!」


 兵士たちが剣を抜いて立ち上がる。

 構えるか構えないかといった所で俺が一人の剣をたたき落とす。


「なんだ剣もまともに持てないのか。そんな奴が兵士とはな、練度の低さが透けて見える」

「んだとこらぁ!」


 わめくもう一人の剣も俺がたたき折る。


「なっ、いってぇ……」


 衝撃で痛めたのだろう、兵士が手を押さえてさすっている。


「火事場泥棒のように本隊がいなくなってから野盗の物真似でもしているような奴め。お前たちを切り刻めば俺たちの家を壊された怒りも少しは治まるかもしれないな」

「なっ、いや、俺たちは別に、王国に雇われてさ……」

「ここを破壊したのも俺たちじゃないし、な、俺たちは関係ないから見逃して……」


 俺が剣を一閃すると、兵士たちの両腕が地面に転がった。

 転がりわめき散らす兵士たちを俺は冷たく見下ろす。


「ゼロ、もう少しこいつらから話を聞き出したい」

「そうか済まないなルシル、少し頭に血が上ってしまった……。チュージ、傷を治さなくていいから死なないように止血だけしてもらえるか? 俺が回復魔法を使うと全快させてしまいそうでな。専門のプリーストに任せたい」

「そういうことならゼロ様、お任せください……ケケケッ」


 ゴブリンプリーストのチュージが泣き叫ぶ兵士たちに近付くと、治癒魔法をかけていく。


「さあ兵隊さんたち、あんたらの傷は塞がった(・・・・)よ。元通りとはいかないけどね」


 チュージが兵士から離れる。兵士の右腕はもう一人の兵士の左腕と、左腕は相手の右腕とそれぞれ切断面で接合されていた。


「ぎゃーっ!」

「ななな、なんだよこれぇ!」

「ちょいと回復力が高すぎて二人のお手々がつながっちゃったね、でも傷はもう塞がったからね、命だけは助かったよ、ケケケッ」


 チュージのひねくれた笑い声と兵士たちの泣き声が丘の上に響いていた。

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