ぼーっとしてみた
風が気持ちいいな。
久し振りに帰ってきた俺たちの家。岩でできた小さな小屋だ。まあ、いろいろあって天井が崩壊していたり壁がボロボロだったりするが。
だから風通しがいい。
「ねえゼロ」
「なんだ?」
天井の穴から空を見上げる。青空が広がる中で小さな雲が穴を横切っていった。
「たもって箱ってどうする?」
一応もらってきたこの箱。俺たちの命というか、老いがたまっていく箱。俺たちの若さを保っていく箱。
「それはお前に預けたんだ、好きにすればいいさ」
「でもそれこそ転んで開けちゃったりしたら困るでしょ?」
「そうだなあ……。どこかに隠しておこうか? それにこの箱ってさ、たまっていた時間の効果が現れるのは箱を開けた奴だよな」
それでフローラを百年成長させたのだからな。あの効果には驚いたものだが。
「仮にどこか洞窟に置いといてさ、誰かがそれを開けたとしてもそいつが歳を取るだけだよな」
「そうだけどさ、そうするとたもって箱の効果もなくなるでしょ?」
「ん~、あまり説明聞いていなかったからなあ。でもまあ魔法の効力は切れそうだよな」
「多分ね~」
ここには俺とルシル、二個のたもって箱がある。一応判り易いように俺の箱には青い飾り紐、ルシルの箱には赤い飾り紐を巻いておいた。
「それだと長命って事にはならないよね。いつか急に歳を取り始めたら、箱の効果が切れたって事になるから」
「それだと気付いた時には手遅れなのか」
「う~ん、そういう事になるかなあ」
「でもいいや、俺は元々定命の者だからな」
仰向けに寝転んでいる俺の胸にルシルの頭が乗っかってくる。
「寂しい事言わないでよ」
「そうだけどさ、それはそれで人生を楽しめばいいし、充実した人生っていうのを共に過ごすって、それはそれで魅力的だと思うけどな」
「えへへ。ゼロからそんな台詞聞くとは思わなかったなあ」
「そう、かな」
無意識に自分の鼻の頭をかいたいた。ちょっと恥ずかしかったかな?
「そうだね、今は長命でいられるからそれはそれでいいんだけど、もしもの時はその時に考えればいいよね」
「ああ。今はとにかく……」
俺はゆっくりと目を閉じる。
風に乗って草原を渡る大地の匂いがした。深呼吸するとルシルの甘い香りが感じられる。俺の肩に触れるルシルの手がとても安心するな。
俺は常時発動の温度変化無効スキルがあるからルシルの体温が感じられないが、きっと温かいのだろう。こういう時はSSSランクスキルが恨めしいと思う。
常時発動は不意な出来事にも対応できるがそれは常在戦場の場合に役立つ物だ。今の俺には……こういったスキルが不要になる生活が懐かしくも思えてきた。
「ルシル……?」
ルシルは俺の胸の上で小さな寝息を立てている。
あれ? これって俺、あんまり動けない感じか? そう思うとちょっと緊張してきた。
少し腕が痺れてきた気がする。さて、これがいつまで持つかな。
【後書きコーナー】
いつも応援ありがとうございます。
最後にのんびりして、この章は終わりです。長い事ゼロたちの冒険にお付き合いいただきありがとうございました。
これを書いている時にはまだ次話を書いていないのですが、まだ続いているようでしたら次章でお会いいたしましょう!
それではっ!