それぞれの海岸線
俺たちが地上へ帰る時、道案内としてセイレンがついてきてくれた。
「どうせ浮かべばどこかに出るんだろう? あまり気にしなくていいぞセイレン」
「うん、そうだけどね。これは地上で暮らせないあたしのせめてもの気持ち、だよ」
俺はセイレンの泳ぐ後を追っていく。
「さあそろそろ海面が見えてくるよ」
セイレンが言うように海の中も段々と明るくなった。日の光が海の透明度を判らせてくれる。
透き通るエメラルドグリーンの中、泳いでいる魚たち。そこに俺たちも一緒に泳いでいるような感じだ。
「丁度いい所に着いたね。陸地が見えてる」
「お、本当だ。あの奥の山も見覚えがあるぞ」
セイレンに連れられて泳いだ先は、俺の家のがある草原に近い浜辺だった。空も晴れていて海水浴も楽しめそうだな。
「まあもう泳ぐのは当分遠慮したいがな」
「何か言った?」
「あ、いや。何でもないよルシル」
俺たちは岸へと向かっていく。
「あれ? セイレンは来ないのか?」
「うん……。ゼロさん、あたしはここでお別れするよ。陸に近付いたら、そのまま上がりたくなっちゃうからさ」
「そうか」
それでもいいじゃないか、そう言いそうになってセイレンの覚悟を知る俺は口に出さなかった。セイレンも自分の思い通りに陸に上がって生活したいという気持ちもあっただろうが、仲間のため、従姉妹のため、そして亡くなった母親のために海底の竜宮城へ留まる事を決めたんだ。
俺はその気持ちを尊重したい。
「道案内ありがとうな」
それだけ言った俺にセイレンが抱きついてきた。
「ゼロさん……」
抱きついた勢いでセイレンの唇が俺の頬に当たる。柔らかく温かい感触が俺の身体に触れた。
「ありがとう」
それだけ言ってセイレンは水しぶきを跳ね上げながら海中へと潜っていく。
「ゼロ」
「な、なんだよルシル」
ルシルは無言でたもって箱を俺の前に見せる。
「うっぐ……。ど、どうしたってんだよ」
「べつに~」
ルシルは少しむくれながらも岸へ向かって泳ぎだした。
「ほらゼロ、早く来ないと夕飯の支度! 後に着いた方がご飯作るんだからね!」
「ちょっ、それはないだろ! 待ってろよすぐに追い越してやる!」
「Rランクスキル海神の奔流!」
「うわっ、スキルを使うなんて汚えぞ!」
航跡を残してルシルが突き進む。俺は笑ってその後を追っていく。
「しょうがない、今日は俺が腕によりを掛けて飯を作ってやるかな」
そんな日常が戻ってきそうな生活に期待しつつ、俺はルシルを追って泳いでいた。
日はまだ高い。今日はこれから暑くなりそうだ。
まあ俺は気温の違いなんて判らないんだけどな。
【後書きコーナー】
ご覧いただきありがとうございます。これでこの章は終わり、エンディングへと向かいます。
お付き合いいただいて嬉しいです。これも皆様の応援があってこそ。
さて、この章では自然現象、自然災害と思えるような事象がいっぱい出てきました。竜巻による魚たちの巻き上げや海底火山、海底地震とプレートの変動。どれも誰かが影響していたり誰かに影響されていたり。
そう思うと、現実の地震もナマズが動いたからとか、火山の噴火も大地が起こっているからとか、そんな話が本当に思えてきてしまいます。
今回はそんな海の不思議を少しだけ物語に使わせてもらいました。
自然って、すごいですね。
それでは。