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お別れのたもって箱

 瓦礫はだいぶ片付いて、仮組みだが門ができている。城は基礎工事を始めたようだ。辺りをマーマンたちがせわしく行き来している。


「ずいぶんと厄介になったな」


 俺とルシルは復興途中の竜宮城の前にいた。竜宮城の跡地を背にして立ち泳ぎをしているのは乙凪おとなたちだ。


「そんな、ゼロさんが再建にもお力添えいただいたからこそ、復興も目処が立ったというものです」

「あのね乙凪おとなちゃん、ゼロは再建なんてできないからね。ゼロの工作クラフトスキルなんてNランク(ノーマル)なんだから」

「でも、瓦礫の山を一瞬で灰燼かいじんに帰したあの威力は流石ですわ」

「まあね、ゼロは壊すだけなら誰にも負けないからね」

「おいルシル、そういう言い方はないだろう。片目を閉じて舌を出した所で許してやらないからな」


 可愛いけど。


「いやまあそんな事はさておき、確かに俺は物を作るのは苦手だからな、宮殿を建てるとか家を造るとかは皆に任せるとするよ」

「それでは……」


 乙凪おとなが寂しそうに俺たちを見る。


「ああ、ここらで帰るさ。それくらいが丁度いい」

「はい……」


 うなだれる乙凪おとなの頭をセイレンが優しくなでていた。


「ゼロさん、あたしやっぱり……」

「セイレンは竜宮にいる皆を頼む。海虎かいこの連中が馴染めるように、な」

「う、うん……」


 何かを訴えるような眼差しを俺に向けるセイレン。あのドタバタ劇がついこの間のようだったな。なんだか目頭が熱くなる。海中だから潮が目に染みたかもしれない。


「落ち着いたらまた遊びに来いよ。俺の家は竜宮城程立派じゃないけどさ、地上の食べ物をごちそうするよ」

「うん、ありがとう。その時は乙凪おとなたちも連れて行っていいかな」

「もちろん。皆で来てくれよ、歓迎するぞ。なあルシル?」

「そうだよ、パイとかシチューとか、海の中だと食べられないやつを作っておくから!」


 セイレンは泣き笑いのような顔になる。


「楽しみだなあ。ね、乙凪おとな

「はい、セイレンお姉様」


 見た目は人間の姿になっているセイレンと、下半身が魚のマーメイドの乙凪おとな。だが従姉妹だけあってその顔は似たものがある。


「それではゼロさん」


 乙凪おとなが後ろにいたポセイたちへ合図した。竜宮の戦士たちは小さい箱を手に俺たちの所へやってくる。


「ほら、これ。姫からの下賜かしの品だ」


 ぶっきらぼうに箱を差し出す。黒くテカテカと光沢のある箱に紐が結わえ付けられている。


「おや、もしかしてこれは……」

「はい、たもって箱です」

「でも乙凪おとな、バイラマのたもって箱はもうフローラにあげちゃったし、俺たちがもらっても使い道がないし」

「それでもお持ちになってくださいね。中にはお二人の時を閉じ込めていますから」

「開けたら煙が出て、その時間を一気に消化してしまうって事だろう?」

「はい。でもこのままお持ちになれば、これからお年を召しても若いままでいられますよ」


 乙凪おとながそう促すものだからルシルが箱を手に取ってしまう。二つともだ。


「私は魔王の力があるから老化はゆっくりだけど、ゼロはそうもいかないでしょ?」

「まあな、人間だからな、一応普通の」


 普通、か。自分で口にして違和感を覚える言葉だな。


「これゼロが持ってもらってさ、ゼロも歳を取らないようにすればずっと……ね?」


 そうか、ルシルは長寿でもあるし身体はバイラマの物だったから更に不老長寿なのだろうな。俺の方があっという間によぼよぼの爺さんになって先に死んでしまうのだろう。


「判った。この箱はルシルが持っていてくれ」

「二つとも?」

「ああ」

「ゼロのも?」

「そうだ。開けてもいいし開けなくてもいい。ルシルの好きなようにしてくれ」


 定命の者としてこれは命を相手に預けるに近い行為。信頼と愛情の証。

 万が一俺がルシルの期待に応えられない時、それは俺の死を意味する。そこまでの覚悟を込めた箱だ。


「それで乙凪おとな、この箱には何年分の時間が保たれているんだ?」

「ゼロさん、何年分なんて、そんな程度ではありませんよ」

「え?」


 もしかして時間軸が違うとかなんだか面倒な話になってやしないだろうか。


「何年分じゃないとすると……」

「はい、三日分です」


 俺は足を滑らせて転びそうになり、危うくルシルの持っている箱を開けそうになってしまった。

【後書きコーナー】

 いつも応援ありがとうございます。


 世の中大変ですよね。これは平時でも緊急時でも同じかもしれませんが。生きるって大変。


 そんな中、玉手箱のように老いを閉じ込めておけるなんていう事ができるマジックアイテムがあると面白いですね。使える物なら使ってみたいけど、きっと途中で飽きてしまうのかもしれません。だって、気付いたらみんな周りが知らない人、というより赤ちゃんだった人が老いて死ぬまでの時間を見届ける、見届け続けるのですから。


 そりゃ飽きますわ。


 それでも生きるためには食べていかなくてはならないとか、もう無期懲役みたいな感じになっちゃいます。


 そういえば、無期懲役の囚人が不老不死だったらって思うと、永遠に働き続けるのか~って考えてげんなりしてしまいました。

 そもそも囚人にならないようにしないと、ですね。


 それではまた。

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