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明日の事は酒の席で

 宴は一晩中続いた。

 町が崩壊したばかりで贅をこらした食事というわけにはいかないものの、今できる精一杯のおもてなしが俺たちに振る舞われる。


 初めはテーブルと椅子が揃えられていたのだろうが、もう今となっては椅子もあちらこちらに置かれて、人によっては座りながら酒を飲んでいたりもした。

 ここも人間仕様にしているのか、空気の膜があって呼吸もできる。

 何より飲み物があるというのは嬉しい事だ。海中では飲み物なんて存在自体がないからな。


「いかがかしら、楽しんでいらっしゃる?」

「これは女王。ええ、もう十分という程にいただいている」


 女王がテーブルを挟んで俺の正面に立っていた。俺は杯を軽く掲げて応える。

 海の中でできる酒というのも面白いが、酩酊感は確かにあるのが面白い。


「この度はいろいろとご尽力いただいて、本当に感謝する事しきりです」

「あぁ、それなんだが」


 竜宮の女王、この海底の国を統括する者だ。


海虎かいこの民はどうなるんだ」


 国を抜けた姉王女が行き着いた先。この竜宮の女王にしてみれば自分の姉がいた所だ。


「彼らが望めば竜宮に留まっていただいても構いませんのよ。いえ、できれば残っていただきたい気持ちはあります」

「ほう」

「彼らの戦闘力は竜宮の戦士たちをはるかに凌ぎます。それは認めるべき所。そして今の竜宮には復興が、いえ新たに興す事が何よりも必要となります。そのためには海虎かいこの皆さんにも尽力いただきたいですわ」


 確かにそれはそうだ。個々の強さで言えば彼らの方が断然上だ。


「だがそれは逆に国力を、国政を少なからず彼らに渡すという事になるだろう? 軍の一部を担うとなれば反乱も警戒しなければならないだろうし。女王が言った通り、正直ポセイたち竜宮の戦士ではサフランたち海虎かいこの六将は押さえられないぞ」

「そう……ですわね。ですがもはや彼らも敵ではないのです。これから竜宮の民として暮らしていく事で共に泳いでいける国にしたいですわね」


 理想を語る時の女王は少し少女のような希望に満ちた瞳に変わる。まるで娘の乙凪おとなを見ているような感じだ。

 だが為政者としては希望だけではない。現実問題を解決していかなくてはならないのだ。


「まあそこはあたしがどうにかするよ」

「セイレンか」

「まま、一献いっこん

「おお悪いな」


 俺の差し出す杯にセイレンが酒をついでくれる。


「あたしがゼロさんについていって地上で生活するのもいいかなって思ったんだけどさ」


 ほら、そういう事を言うから、隣でルシルの目がつり上がっていくぞ。


海虎かいこの民をそのまま放っておくというのも亡くなった母上に悪いからね」

「そうか。まあ俺も竜神の鱗があればいつでも海底に行けるからな、会いたくなったらどうとでもなるさ」

「そうだね。でも、また竜巻で飛ばされたりしたらその時はよろしくな」


 そんな事もあったな。


「はははっ、もうそれも無いだろうがな。竜巻と言えば、炎海竜サラペントの母娘はどうした? 姿が見えないようだが」

「フローラたちならもう国を出たよ」

「母親のプレアリーはまだ全快していないだろうに、大丈夫なのか?」


 炎海竜サラペントのプレアリーは人間の姿になってからルシルに治癒をしてもらった。菌の侵攻は抑えられているようだがそれでも安静にしていなくてはならないだろうに。


「マーメイドの国で人の姿をしているよりは、海竜の身体でゆっくり養生したいって。それに物見遊山で親孝行したいってフローラが言っていたよ」

「そうか。出かける前に一言挨拶くらいしてくれてもよかったのにな。俺が飲み食いしている間にいなくなっていたとは……」

「ゼロさんが気付かなかったっていうのは珍しいね」

「いいかセイレン、俺だって常に意識を集中している訳じゃないんだ。たまには気だって抜けるさ」


 俺はくいっと杯をあおって酒を飲み干す。


「お酒も入っているしね」


 セイレンが空になった杯にまた酒をついでくれる。


「そうか……フローラがな」


 俺は杯の中にフローラを思い出していた。

【後書きコーナー】

 いつも応援ありがとうございます!


 今日はさっくりと。

 竜宮の戦士たち、ドンの者についての解説を。

 竜宮の中でも戦闘に長けている、そして足のヒレでも地上を歩く事のできる能力を持った戦士たちをドンの者、と呼んでいます。


 なんて事はないです。

 ポセイ・ドン、カイセン・ドン、ホッカイ・ドン。

 はい、ポセイドンと海鮮丼と北海丼です。海の神と海の幸です。


 美味しいイクラ丼が食べたいです。


 それではまた。

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