最強の防衛力
フローラたちが海溝を寄せ合わせ、俺が海底そのものを溶かして固める。ルシルが固めた海底を水流と氷で冷やして安定化をさせていく。
「火山弾はあたしに任せて! ゼロさんたちの邪魔はさせない!」
セイレンが珊瑚の杖で降り注ぐ火山弾を激流で弾き飛ばす。
「助かる、セイレン!」
「任せて!」
フローラが山のような身体をくねらせて首を俺たちの方へと向ける。
「ゼロ王、固めてくれたお陰で俺たちが力を掛けなくても海底が固定されているぞ!」
「よし、次はまだ開いている所の溝に注力してくれ! 力を掛けずに済む部分が増えれば増える程お前たち海竜の負担も減っていくはずだ!」
余力が出てきているからな、ところどころで竜神の逆鱗を左手で押さえて会話をするくらいはできるようになった。常に全力で立ち向かう時期は過ぎた。
「確かに! 母上、固まった部分は手放しましょう! もう俺たちで押さえなくとも海底は引き裂かれないからな!」
フローラの呼びかけに炎海竜もいななきで応える。
「全体からするとまだ半分くらいの距離かもしれないが、ここから先は固めた部分は気にしなくて済んでくる。どんどん楽に、やりやすくなっていくぞ!」
「おう!」
いいぞ、この調子だ。当然全員ここまででかなりの力を消耗している。それでも士気は落ちていない。
俺が言った事は自分に向けて言ったものでもあるからな、ここで倒れる訳にはいかないぞ。
それに元々海底を押さえるだけで手一杯だった炎海竜が、少しでも力を取り戻してくれれば。
「ゼロ、そう考えるとこの海溝を一人で押さえていたなんて、炎海竜って凄いんだね」
「そうだな、ルシルの言う通りだ。しかしその山脈みたいな炎海竜ですら苦戦していたが、皆で対応すれば別の解決法も見つかるというものだ!」
「固めた部分を面倒見なくて済むようになれば……」
「ああ、炎海竜もこの辛く長い任務から解き放たれるかもしれない」
「だね!」
永遠にも続くかと思えた海底の裂け目も徐々にふさがっていく。その速度は少しずつだが上がってきているようにも感じた。
「皆頑張ってくれているな」
「そうだね。終わりも近いと……あ、あれ!」
ルシルが指さす先、何か黒いモヤが湧き上がっている。
「あれって細菌の、うんちの奴!」
「こらルシル」
黒いモヤは徐々に濃くなり、俺たちに迫ってきた。
そこにはウェルシュに似た姿、汚物を身にまとっているような奴が何人も現れる。
「お前たちだな、ウェルシュを滅した者たちというのは……」
「ぐへへ、ウェルシュなんて雑魚を倒したくらいでいい気になっている連中は、さぞや潰し甲斐があるんだろうなあ」
下卑た笑みを浮かべながら寄ってくるが、そこにセイレンが立ちはだかった。
「あんたらにゼロさんの邪魔はさせないからさ……大人しく消えてくんないかな?」
「なんだと……お前、マーメイド? いや足が生えているな。もしかしてマーメイドの長生を捨てて人間の身体に成り果てやがった奴かぁ!? ぐへへ、そいつあ面白い、俺たちのいい菌床になってくれるか試してやろうか!」
「下品だな……」
セイレンは大きめの火山弾を水流で操ると汚物たちに投げつける。
「ぼぎゃぁ!」
「あじい、あじあじ!」
汚物たちは焼けただれる火山弾を受け、潰され、熱され、飲み込まれていく。
「あんたらくらいの連中、ゼロさんの手を煩わせる程のものじゃないわ」
珊瑚の杖を振り払って、セイレンは火山弾破壊に戻っていった。
「すごいなセイレン。確かに俺が手を出す必要、なかったな……」
【後書きコーナー】
いつも応援ありがとうございます! 世間はいろいろとありますが、創作の世界ではハッピーエンドで楽しめる世界にしていきたいです。
手洗いうがい奨励になっている所ですが、このウェルシュの元となったウェルシュ菌は、嫌気性という事で、酸素の無い環境が好きだとか熱に強いとか、食中毒の原因になる菌だったりします。
なので、どうやったら倒せるのかと考えましたが、溶岩なら流石に焼き殺せるだろうなと思ってセイレンには頑張ってもらいました。
人間の姿になったセイレンですが、人魚姫のように声を失うという事もないようで、それはよかったと思います。
それではまた。