一瞬で得る積年の力
たもって箱から出てきた白い泡に包まれるフローラ。海底火山の煙とは違って灰が水に溶け込んだような濁りではなく、煙の詰まった空気の泡みただ。
「フローラ、大丈夫か……」
泡が急速に小さく縮んでいく。その中でとぐろを巻くようにして小さくなっているフローラが見えた。
「う……」
フローラのかすかな声は、耳を澄ませていないと海底火山の噴火音にかき消されてしまいそうだ。
泡がフローラの身体の中へ吸収されるように染み込んでいく。そしてゆっくりと身体を伸ばしたフローラは、それまでの小さなドラゴンではなく成長した大人の海竜だった。
「お、おお……。人間……あ、いやゼロ王か。今は我が主であったからな。久しいな」
「おいおいフローラ、久しいって今さっき箱を開けたばかりじゃないか。それに大きくなったのはいいが言葉遣いも成長するものなのか?」
「そうさなあ、今までとは同じと言えば同じなのだが……百年の月日がいちどきに流れ込んできたような感じであってな。不思議なものでどこからか知識も得られたようでな」
「変な感じだな。本当にフローラなのか、あの小さなドラゴンの」
フローラは首、というか海竜の頭を傾けるようにした。
「俺は百年を過ごしたつもりでおったが、どうやら内と外では過ぎ去りし時間の流れが異なるようだ……。ふむ、面白い。いや、母上をお助けせねば。母上!」
「大丈夫だフローラ、お前が箱を開ける前と状況は変わっていない。まだお前の母は、炎海竜は持ちこたえてくれている」
「そうか。それであれば俺の百年は間に合ったと思ってよさそうだな」
「それならいいが、だがそれ程猶予は無いぞ。世代交代はできるのか? 一瞬でも手を放すと世界が大地震に見舞われるとか言っていたが」
「それであれば任せろ」
自信ありげにフローラは身体を大きく伸ばした。その姿はどんどんと大きく長くなり、天を衝き地を這う神話の大蛇のごとく巨大な海竜となっていく。
「よいか、俺が母上の上から俺が押さえる。二人の力で海底を押さえるんだ。海溝が広がる力を止めるのではなく海溝を閉じるように。そしてこの時を逃さずゼロ王は海溝を縫い合わせて欲しい」
「縫い合わせる?」
「ああ。二つに分かれた大地を一つの海底としてしまうのだ」
「接着剤代わりにつなぎ止めるのではなく、つなげてしまうのか。それはどうすれば……あ」
そうか、今までは溝に詰め物をして固めようとしていた。
だが両方の壁がくっつくのであれば詰め物はいらない。
「高熱で海底を溶かしてまた固めればいいだけか」
「その通り! それができるのはゼロ王、あなただけだ」
フローラが百年考えた解決法がそれか。
「こりゃあ最後の力を振り絞らなくてはならないな!」
【後書きコーナー】
いつもお読みいただきありがとうございます。応援がエネルギーです! 燃料投下、よろしくお願いします。
海溝の話、開こうとするのを止めようというのが今回のミッション。地球であればマントルがあってその動きによって大陸のプレートが動いて、裂け目ができた所は新しい海底が盛り上がってくるというのが定説で、ゼロたちの世界のように、ヒビが入って裂けていくのとはまた違うみたいなのですよね。
だいたい惑星でヒビができたら中から溶岩が噴き出したりして溝を埋めてしまうでしょうし、溶岩が存在しない凍った惑星であればそもそもプレート運動も起きないでしょうから、別の因子が働いていると考えるのが妥当かなと思います。
ここら辺の考察はまた外伝などで詰めていっても面白いかも知れませんね。
ではまた!