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百年の月日

 これはいったい何との戦いなのか。俺が降り注ぐ火山弾を砕き、ルシルが水流を作って分割された岩石を海底渓谷に流し込む。これも大地を、海底を引き裂かないための手段。


 炎海竜サラペントが長い間力技で海底が割れる事を防いでくれていた。だがその炎海竜サラペントも菌たちとの戦いで傷付き、身体の内部から深い傷を負っている。次の世代になる娘のフローラはまだ人間の指くらいの大きさしかない。今俺との臣従契約でスキルを発動させて俺たちと同じくらいのドラゴンになってはいるものの、母親の大きさには到底及ばない。


「海底渓谷を埋めて固めるの、まだまだ終わりそうにないよゼロ。炎海竜サラペントのお腹くらいまでは行っているけど」

「おおよそ半分くらいか。まずいな」

「魔力の残量?」

「ああ。今でも結構ぎりぎりだ。こういう持久戦は今まであまりやっていなかったからな」

「瞬発力には自信あるのにね」

「まったくだ。とはいえここで投げ出す訳にも……」


 海中で息切れというのもおかしい話だが、体力がかなり削られている気がする。肩で息をしているような状態だ。


「さあてここが正念場だ」


 こうなれば魔力が切れても剣技や体術で何とかするしかない。そう覚悟を決めた時だった。


「お待たせ、ゼロさん!」

「セイレン! どうした、皆の避難は」

「それは乙凪おとな海虎かいこの六将に任せてきたよ! あたしは少しでも力になりたくてさ!」


 嬉々としてセイレンが現れたのを見て、少し心強くなる。


「抜け駆けしてきたって事ね」

「こらルシル、そういう言い方はないだろ」

「そうね、私も本心では嬉しかったものだから。ごめんなさいね」


 素直に謝るルシル。でも疲れのあるその表情は少しセイレンが来た事でゆるんだようにも見えた。


「いいのよルシルちゃん。それよりゼロさん、フローラちゃんは?」

「海溝の所で炎海竜サラペントと一緒に海底が裂けるのを防いでくれている」

「あら、少し大きくなったのね。どうしたのかしら」

「まあ説明は後で、無事に戻れたらな。それでフローラに用があるのか?」

「うん、あれはまだ持っている?」

「あれ?」


 セイレンは俺の腰にくくりつけられている箱を指さす。


「たもって箱よ」

「この箱か? それがどうした」

「あのねゼロさん、本当は竜宮の者から話をしなくてはいけないのだけど、あたしはもう竜宮じゃないから」

「長くなりそうか?」

「あ、えっと、かいつまんで話すね」

「そうしてくれ」


 セイレンと何度か行ったやりとり。俺たちは思わず吹き出してしまった。


「たもって箱はバイラマの命の時間が保管されているの。長さにして約百年」

「ん? バイラマは三百年前に来たんじゃなかったか?」

「そう、三百年前に竜宮城へ訪れて、百年間滞在していたみたいなの」

「なるほどそれで百年、竜宮城にいた期間の時間という事か」


 セイレンは小さくうなずく。


「時間を保っている箱。若さの秘訣はこの箱、いや竜宮の時の管理だったか。あ!」


 もしかして、これは……。


「セイレン、これはバイラマの時間、老いが封じ込められているとすれば、開けるとルシルが百年歳を取るという事か?」

「ううん、老化はするんだけどそれは」

「もしかして開けた者に効果が反映されるのか?」

「そう、その通りよ」


 そうか、そういう事であれば。


「フローラ、済まないこっちに来てもらえるか!」

「どうしたんだよ、行けなくはないが……あ、海虎かいこの!」


 フローラが作業を止めて俺たちの所へとやってきた。


「お前、今ここで百年歳を取れるとしたらどうする?」

「え、何言ってんだよ、そんな事できる訳がないじゃないか! こんな忙しい時にからかうのもいい加減にしてくれよ!」


 セイレンが割って入る。疲労困憊ひろうこんぱいな上に突飛な事を言われてフローラも感情が高ぶっている所だ、そう容易く落ち着くとは思えないが話を進めるためだ。


「これが冗談じゃないとしたら?」

「えっ?」


 俺は腰にあった箱を取り外してセイレンに渡す。


「これを使えばあなたは百年歳を取る。人間だったら老いて死ぬ年数だけどあなたみたいな海のドラゴンでは成長を早める道具にもなると思うの。どうかしら、開けてみるつもりはない?」

「百年……」


 人間の感覚では確かに百年歳を取る事は歓迎されざるものだ。だが寿命が数万年のドラゴンからすれば……。


「いだろう、やってくれ!」

「いや、これを開けるのはフローラ、あなたよ」

「あ、そうなのか!? 早く言ってくれよ!」


 フローラはセイレンから箱をひったくるように奪い取ると、結んでいる組み紐をほどいていく。


「俺も百年経てば少しは大人のドラゴンに……」


 フローラがたもって箱の蓋をゆっくり開ける。

 箱の中から白い煙の入った泡が出てきてフローラを包み込む。

【後書きコーナー】

 いつもご覧いただきありがとうございます。書籍化作家さんほどではありませんが、皆様の応援のお陰もありましてポイントも上昇しています。是非引き続きお読みいただけると嬉しいです。


 さて、海底シリーズもいい加減ラストスパートになってきました。思ったよりも行ったり来たり、いろいろな要素を入れていたりして長くなってしまいました。そして最後ですね。フローラがどうなるのかは次回でお伝えしようと思っています。

 たもって箱の中身については、先の後書きコーナーでも多少触れていた所ですが、結局「老い」や「時間」を閉じ込めていた、という解釈です。浦島さんもきっとそんな感じじゃないかなって思った所です。

 こういったマジックアイテムをどう考えるか、それもまた創作の面白さだったりしますね。なろう版浦島太郎とでもなりますでしょうか。


それではまた!

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