昆布巻き貫頭衣
小さく身体を揺すられる感覚で目が覚める。
「ゼロさん、お酒も飲んでいないのに酔っ払っちゃったの?」
「セイレンお姉様、きっとゼロさんはお疲れなのですよ。あれだけの事なさったのですから」
「う~ん、でもさ、だったら膝枕をするのはあたしでもいいよね? ほらあたしって人間の足になっているし、膝枕できるでしょ?」
「いえ、でしたらわたくしの方がぷっくらと柔らかいお魚の尻尾でお休みさせてあげられますわ」
「じゃあどっちが気持ちいいか、ゼロさんに聞いてみようよ!」
目を閉じながら事の成り行きに任せるとしよう。
「さ、そういう事だからフローラ、その足をどけてちょうだい」
フローラ? 足? だってフローラってドラゴンだろう。大きく膨らんで俺の枕になってくれて……。
「え!?」
あまりにも気になってしまって飛び起きようとして頭を上げると、上から何か柔らかい物が押しつけられた。
「にゃんっ」
「あ、ちょっとゼロさん! それはフローラのおっぱい!」
「むがっ」
セイレンのたしなめる声。
そ、そんな事言われてもだな。この柔らかさ、そして結構なボリューム。水中だから脂肪の塊は浮き加減にあるとしても結構な圧力がある。
「お、俺はこれでもドラゴンの端くれ、人間の姿になるくらいは簡単な事だが」
下から見上げるフローラは、銀色の髪を潮の流れにたなびかせて透き通った青い瞳で俺を見つめた。
見える範囲は裸の状態だ。俺はフローラの豊満な胸の谷間からフローラの顔を見上げている。
「なんで……裸、なんだ?」
「別におかしくはないだろう。ずっと俺は服とかいう奴は身に着けた事がないんだぞ」
「そりゃあドラゴンの時はそうかも知れないが」
「人間に姿を見られた所で恥ずかしいとも思わないからな。所詮これは仮の姿だし」
「そうだとしてもだなあ……」
俺はゆっくりと起き上がって、巨大な昆布を一枚切り取ってきた。
「こうして真ん中に穴を開けて、そこから首を通す。腰紐も……長い海藻で代用してっと。ほらこれでいいだろう」
即席で作った貫頭衣をフローラに被せる。
「お、これが服って奴か!? なんだか窮屈だな」
「でもいいんだよ、俺が目のやり場に困る」
「構わないのになあ」
「俺が構うんだよ!」
「そっかあ。ま、ありがとな。俺、人間に服なんかもらったの初めてだからさ!」
にひっ、って笑うフローラの顔が子供っぽさを残しているようにも見えた。身体は十分に大人なんだけどな。
「ほう。ゼロさん、これは地上の文化なのかな。あたしの知っている奴とはまた違って面白い」
「わたくしも欲しいです~」
確かにマーメイドも基本的には裸。胸に二枚貝の貝殻を貼り付けていたりする姿は見た事があるものの、だいたいは胸をはだけた状態だ。
セイレンは地上での生活を経験しているようだからな、ある程度は知見もあっただろうが。
「材料はたくさんあるんだ、皆も着たらいい」
「はい、そうします!」
乙凪は喜んで昆布の貫頭衣を作り始めている。お付きの女官なども手伝っているようだ。それを見ていたマーメイドたちもキャッキャ騒ぎながら海藻の服作りを楽しんでいる。
「あ、そういえばルシルさん」
「ん? なあに」
ルシルは乙凪に呼ばれた事で食べ物に伸ばした手を止める。
「これ、以前来られた時にお預かりしていた物です」
そう言いながら乙凪は手を叩いて他の女官に合図を送った。女官はそっと何かを大人に手渡す。
「お預かりと言っても女王様がまだ王女だった頃の事ですが」
乙凪の差し出した物は、部屋に届く太陽の光に照らされて鈍く光っていた。
【後書きコーナー】
お読みくださりありがとうございます。皆様からの応援が励みになります! 新たにブクマをしてくださいました皆様にも、お礼いたします。
さて今回は膝枕について。
膝枕って私は子供の頃、正座している人と九十度ずれた位置に乗っかるものかと思っていました。
どういう形かというと、頭を乗せている人は、横を向くと膝枕をしてくれている人のお腹を見るか、膝頭の方を見るかって感じになります。
で、思春期頃ですかね、とある作品に出会いまして。そこでは正座をしている人と真っ直ぐに頭を乗せていたんです。太ももと太ももの間に埋まる感じ、でしょうか。
足を開くとそのまま頭が落ちちゃう構図です。横だと足を開いても頭は落ちませんよね。そう、縦に頭を乗せるんです。
今回は特にその辺りこだわりがないので、読者の皆さんに想像しやすいような書き方にしたつもりです。どちらを選ばれたか、アンケートを採れたら面白いかもしれませんね!
あなたは……。
・膝枕をして欲しい/してあげたい
・膝枕は真っ直ぐ/横
なんて。これでマトリックスができますね。
それではまた~。