惨めな小さい生き物
海底にうずくまる小さな人影。汚物の鎧を剥がされて凍えるように肩を抱えている。
「もう腹の中にいなければその辺りに浮かぶバイ菌と同じだぞ。もう悪さはできないんだ、どこかへ消えてしまえ」
「ひ、ひぃ、命だけはお助けを……」
哀れな目で懇願するウェルシュ。
「構わん」
俺がそう答えた時だった。雷のような音が海中に響き渡って海の水が濁る。
「ふわぁ、やっと出られたよ!」
「苦しかった~」
この声の主は、ルシルとセイレンだな。
「無事に出てきたか二人とも」
「なんとかね!」
モヤが晴れてきて二人の姿も見えるようになってきた。海水に流されたのかあまり汚物は付着していないようだがな。俺とは違って。
「どうだったゼロ? やっつけた?」
「あ、ああまあ、あんな感じだ……あ?」
さっきまで小さくうずくまっていたウェルシュだが、もうそこにはいなかった。
「きっ、きっと仕返しをしてやるからなっ! 覚えていろっ!」
見れば海底火山の間を縫うように泳いで行っている。
どうも遠くへと逃げ去った上に捨て台詞を吐いて逃げようとしている訳だが。
「どうする、やっちゃう?」
「そうするかなあ。Sランクスキル発動、凍晶柱の撃弾。俺たちに刃向かった奴を叩き潰してしまえ」
俺の左手からは大量の氷の塊が勢いよくウェルシュへと向かっていった。
「ぶぎゃらっ!」
氷の襲撃を受けてウェルシュが潰れた蛙のような声を出す。俺がそう簡単に逃がすと思ったのか。
まあ逃がしてやるんだけど。これで無事生きていたら、な。
「しぶといなあ。もう一発やっちゃう?」
「いや、これでだいぶ懲りたろう。このまま素直に消え去って、二度と炎海竜へ近寄るなよ!」
聞いているのかどうか、うめき声を上げながらウェルシュは岩陰へと消えていった。
「寛容になったねえ、ゼロ」
「そうか? 俺は無駄な争いを望まないからな。基本的な所は変わらんよ」
「一度キレたら容赦ないけどね」
「そりゃあそうだろう。俺だって無抵抗で無条件にやられるような人間じゃないからな」
「じゃあ今回の奴は」
「俺の手を汚す事もないだろう」
「そうだねえ。Rランクスキル海神の奔流っ」
「ぶわっ、ばばば、何すんだよ!」
ルシルはいきなり俺に向かって激流を噴射させやがった。
「だってさ、汚かったから」
「その言い方……」
だがルシルのお陰で俺の身体に付着していた汚物は流されたようだな。
「残念?」
「何がだよ」
「折角うんが付いたと思ったのにね!」
ニヤニヤしているかと思えばそんな事か。
「あ、まだ手に付いていたみたいだな?」
嘘だけど。俺は両手をルシルに向けて近寄ってみた。
「きゃぁ! ちょっ、やめてよゼロ!」
「お前にも俺のうんを分けてやろう。ほれほれ~!」
「や~! やめて~!」
冗談か本気か、勢いよく泳いで逃げようとするルシル。そんな俺たちをセイレンが楽しそうに見つめていて……。
「あれ? ゼロさんルシルさん、誰かが来ますよ!」
上半身が人間で下半身が魚のシルエットが数人、俺たちの方へと向かってきた。
【後書きコーナー】
いつも応援ありがとうございます!
急に変な事を聞きますが、この後書きコーナー、あった方がいいかな、無かった方がいいかな、どっちがお好みだったりしますでしょうかね?
まあ、よくある「声の大きい人の意見が通りやすい」なんて傾向にはなってしまうかも知れないですけどね、反応のある読者さんのご意見は、作者として非常にありがたいのです。
ご感想欄でも結構ですので、お知らせいただけると嬉しいです。
今日はそんな所で。では~。