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塵芥と解放と山越えと

 俺たちは工場を出た。俺とルシル、城塞都市ガレイの商人ギルド副ギルド長であるセシリア、ムサボール王国に雇われていた女戦士ブレンダ。そして捕らえられ、まだ息のあったゴブリンが八人。討ち取った兵たちの骸はそのまま工場内に捨て置いた。


「ルシル、いいか」

「準備はできてるよ」

「よし、最終確認だ。俺が円の聖櫃(サークルコフィン)を発動させる。規模はこの工場が収まる大きさだ。これは物理に対する完全遮断の壁となるため、その中での爆発は外部に影響を及ぼさない」

「そこで私が爆炎魔法を壁の中に叩き込むのね。円の聖櫃(サークルコフィン)なら魔法は通過するから」

「ああ。魔法でできた炎は通過するが爆発して燃えた炎は物理属性になるからな。思う存分、全てを灰燼に帰してくれ」


 俺はルシル以外の者を遠ざけると、円の聖櫃(サークルコフィン)を発動させた。薄い水色の膜のような半球が工場を覆う。その時点で工場から垂れ流されていた汚染水が止まり、完全に外界と遮断されている事が判る。


「いくわよ、地獄の骸爆(ヘルズ・バースト)っ!」


 ルシルが両手を前に突き出して呪文を完成させる。

 魔法の炎が塊となって円の聖櫃(サークルコフィン)の膜を通過し、工場の壁に触れた瞬間巨大な爆発と火柱が生まれる。

 その炎は膜の内側で燃えさかるが、破片も爆風も外には漏れなかった。


「すごい……」


 セシリアたちがあっけにとられている。確かにここまでの規模で威力も桁外れの魔法の合作は珍しい。


「ふにゃ……」


 ルシルから全身の力が抜けて俺にもたれかかる。


「この威力の魔法は今のルシルでは一回放つのが限度、その上魔力枯渇状態で数日は魔法を使えなくなるところが難点だが」


 俺はルシルを抱きかかえながら頭をなでてやった。


「頑張ってくれたな。ありがとうルシル」

「はふぅ~」


 ルシルは目をとろんとさせて俺に全てを預ける。帰りは背負って行くか。


「これだけの炎だ、中の薬も燃え尽きたと思いたいがこれから新しく精製されるポーションも無いからな、ガレイの町での石華病も徐々によくなっていくだろう。俺は報告をする義務があるからガレイに戻るが、勇者ゼロ、お前はどうする?」

「そうだな、ルシルはこんな状態だが、ゴブリンたちをそのままにしておく訳にもいくまい。王国の影響力が及ばない所まで行ったら、山越えをして一度本拠地に戻ろうと思っている。川をいくつか越えればあの街道に行けるだろうからな」

「副ギルド長さん、あたいも付いていっていいかな。川の上じゃ護衛っていう訳でもないと思うけど、工場のせいで迷惑をかけてしまった人たちがいるなら、少しでも手伝いたいんだ」


 ブレンダが骨砕き(ボーンクラッシャー)を手でもてあそびながらセシリアに頼み込んでいた。


「おいブレンダ、ゴブリンたちには何も言う事は無いのか」

「へ? だってゴブリンだよ。森で見かけたら殲滅する相手じゃないか。ちょっと拷問じみた事は気持ちのいいものじゃないけどさ、あたいだって仲間を何人もゴブリンに殺されているんだ。こうやって助けるとか逃がしてやるとか、そういう事自体不思議に思うよ」

「確かに人間側から見たらそうなのかもしれないがな……。俺たちの本拠地にはヒルジャイアントがいて一緒に開拓に力を貸してくれたりもするし、なにせルシルはこの身に封印した魔王を宿しているんだ。だから、ゴブリンだからと言って単純に敵味方という考え方はしないでもらえると嬉しい」


 ブレンダは不思議そうな顔をしていたが、段々と理解しているようだった。


「そうだね、あたいも考え方を改められるように努力してみるよ。でもまだ今は少し待っていて欲しいな」

「ああ、すぐに答えを出したり考えを変えたりという事は望んでいない。ただそういう世界も、付き合い方もあるのだという事を知ってもらいたかっただけだ」


 それには素直に賛同してくれたようだ。

 俺もルシルと出会う前は、ゴブリンは単なる剣の錆くらいにしか思っていなかった。だが、言葉が通じる事で解り合えるものもあるのだ。俺はそれを感じて欲しかった。


「まあともかく、俺たちはゴブリンを連れて山越えをする。セシリアは舟で川を下ってガレイの町の住民たちにこの事を報告して欲しい」

「そうなると勇者ゼロ、報酬の受け取り人が不在となってしまうのだが」

「そこは商人ギルドでツケておいてもらえないかな」

「ああ、他でもない勇者ゼロの頼みであれば、この俺、セシリア・モンデールが一時的に預かっておこうではないか」

「おう、それは心強い。次に商売でガレイの町に行った時に受け取るようにするよ。よし、それでは日が高い内に俺たちは山越えと行くぞ」


 ゴブリンたちが喜びの叫び声を上げる。

 ようやく円の聖櫃(サークルコフィン)の中の爆発が収束し、丸くえぐられた部分に灰が積もった状態になっていた。

 円の聖櫃(サークルコフィン)を解除すると、風に乗ってかすかな灰のにおいが充満して鼻がツンとする。


「さて、行くとしようか」


 俺たちはそれぞれの道を進み始めた。

【後書きコーナー】

 工場編が終わって、いい加減王国がウザくなってきたので、そろそろ本格的に潰すための第三章が次回から始まります!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回のお話。 水戸黄門+暴れん坊将軍って感じでおもしろかったです!
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