括約筋の活躍禁止
ルシルが作り出す水の流れに乗っかって進む。進むというより俺も流されているって感じに近いのかな。
「おい人間、あの奥を見ろよ!」
「んー。お前俺よりも目がいいな。俺には暗くてよく見えないぞ」
手元で浮いている閃光の浮遊球の光はそう遠くまで届かないからな。
「俺は夜目が利くからな」
「赤外線暗視か。熱を映像に変換して視認できるという」
確か温度変化を感じる事ができる能力で、西の大陸を治めているトリンプや、ワイバーンのウィブも使えたっけ。俺はその能力を持っていないから暗い中では相手を認識できない。
「そうだねえ、きっと汚物なんだろうけど水もかかって体温が下がっているんだろう。きちんと人の形では見えないけど熱源としては存在する……そんな感じかな」
「それでも目標が判るのは心強い。Rランクスキル発動、氷塊の槍! 着弾点を見てくれ!」
一発だけ氷の槍を投げる。固い物に当たって氷の砕けた音がした。
「ちょい左!」
「よし、Rランクスキル発動、氷塊の槍! もう一度だ!」
次はさっきと違う音。それとうめき声にも似た何かが聞こえたような。
「命中! 熱源の温度が下がっていくよ!」
「いいぞ、このまま流れに乗って奴に追いつくぞ!」
「お、お? おおー!?」
水流が俺たちを押し流してくれるのはいいが、段々と水かさが増してきているじゃないか。
「これって……」
「母ちゃんのケツの穴が閉じてるって事、かな?」
表現は何だが、体内洞窟も末端の方へ来たという事か。
フローラの言葉が最後になって、俺たちは水の中に飲み込まれた。急いで竜神の逆鱗を口に当てて呼吸はできるようになったが、また片手で戦わなくてはならないか。
「何だ人間、それって」
フローラは水中でも呼吸ができて会話もできるのか。
「竜神の逆鱗と言ってな、人間でも水中で息ができて話もできる道具だ。口に当てていないといけないのが少々手間だがな」
「へぇ、便利なものが……って、その鱗、母ちゃんの鱗じゃないか!」
「そうなのか? それってもしかして」
凄くまずい事だったりするのか?
「あー、まあ母ちゃんの鱗はあっちこっちにばらまいているからな。新しい鱗が出てきて古いのが剥がれたんだろう」
そうなのか? それを聞いて少し安心したけど。だいたいセイレンが炎海竜の鱗を引っぺがしたりはできないだろうからな。セイレン程の実力者でもそれくらい力の差がある。他のマーメイドじゃあ竜神の逆鱗を手に入れる事ができないから、竜宮の中でも竜神の鱗しか確保できていなかったのかもしれない。
「でもそれだとお前も不便だろう? よし……うーんっ!」
フローラが意気込むと、その身体が長く細く伸びていく。
「な、おい!」
フローラが俺の口に当てている竜神の逆鱗の右側を咥え、俺の頭部を一回りして左側から足でつかまる。竜神の逆鱗で俺の口を覆ってマスクのようにして、フローラがそれを押さえる紐のようになってくれた。
「これで両手が使えるだろ?」
フローラはフガフガしてしゃべりにくそうだが。
「ああ、助かるぜ!」
「それでどーすんだ!?」
なんとかフローラの言葉は聞き取れる。
「あのウェルシュとか言う奴がこのまま炎海竜の中にいちゃあ困るだろう。奴が打たれ強いのは確かだがそれも体内の中だからこそ。身体の外に出しちまえばそこまで影響はしないはず!」
「そ、それって……」
「見てろよ、俺の最大最強の火力! 魔王から伝授されたSSSランクスキル発動、地獄の骸爆っ! 腹の中で鳴り響けっ!」
俺の両手から凄まじい勢いで光の球が発生し、圧力が加わり小さくなっていく。光の球の大きさが縮んでいくに従って明るさが増していき、これ以上小さくならないというくらいに固まった時、光は辺りを真っ白に染めるくらい明るくなった。
その瞬間、光を中心とした爆発が起きる。
圧力が俺たちを、敵を、そして体内洞窟の内壁を押し広げていく。
「体内洞窟が広いとはいえこんな密閉された空間ではどれくらいの圧力がかかるのか判らないが……」
「お、押し潰されるっ……」
奥からもウェルシュのうめき声と思われる音が聞こえたような気もする。
どれだけの力が発生しただろうか。
その時が来たのは一瞬だった。
「ほわっ!?」
急に流れができる。
「腹が破れたのか!?」
「ち、ちが……」
どこかに穴が空いたようで、そこから勢いよく圧力と水が抜けていく。
当然俺たちもその勢いに逆らえずに流されている訳だが。
「か、母ちゃんの括約筋が限界だったんだよ!」
「それって、いわゆる……」
「ケツの穴が開いたって事だよっ!」
「だよなぁー!」
俺たちはウェルシュとその汚物共々、炎海竜の尻から噴き出されてきたのだった。
【後書きコーナー】
いつも応援ありがとうございます。
今回は体内巡りも最後、ついに外へ出てきた……はずです。
生命の神秘といいますか、下ネタかもしれませんがこれも生命活動の一つですので、ここは大目に見ていただければ嬉しいです。
書きながらトイレに行きたくなる事もしばしば。そんなリアルも感じられる……いえ、感じたくはないですよね。
お食事中の方、失礼いたしました。
これにめげず、続きも読んでいただけるといいなって思っています。
よろしくお願いいたします。