激流で葬る
「どんな奴がこの悪天王ウェルシュ様を討伐に来るのかと思ったら、白いぶよぶよの次は人間みたいな奴だなあ!」
両手に排泄物を持って俺たちに投げてくるのは、汚物にまみれた人型の生き物だ。
正直、ルシルが鳥肌を立ててうずくまる気持ちも判る。
「お前、汚いな!」
「なんだと、この悪天王ウェルシュ様はこれが正装! この姿こそが命ある者の正しい姿なのだ! 見よっ!」
ウェルシュにうながされて辺りを見ると、まあどこもかしこも汚物まみれ。確かにこれはきれいに洗い流したい。俺もさっきは格好をつけて平気な振りをしていたが、流石にここまでくると気持ちが悪くなってくるな。
「こうやってお前が汚すから宿主が苦しむんだぞ。お前だって腸内の一員なんだ、平和に暮らしたいだろうに」
「いいや、俺様はここで好き勝手やるのが一番なんだ! 放っておいても勝手に食べ物の残骸が流れてくる。ひどいときには丸ごと流れてくることもあるからな。そういう美味そうな奴を俺様が取り込んで栄養にするのさ! 俺様のな!」
ウェルシュが汚物を投げてくる。かなり水分量が多いみたいでゆるい塊が飛んできた。
「Rランクスキル発動、凍結の氷壁。これで塞げ」
俺の展開した凍結の氷壁にべっとりと汚物が付着する。
「続けてRランクスキル発動、氷塊の槍で貫けっ!」
氷の壁から腕だけを出して氷の槍を連続で発射してやろう。ある意味火が駄目なら凍らせてみよう。
「びゃっ、さぶっ、つべたっ!」
ウェルシュの周りにこびりついている汚物が凍ることで剥がれ落ちていく。汚物が鎧の役目でもしていたのだろう。中から青白い姿の生物が現れた。体形は人間に近いが身体の表面は吹き出物とかさぶたで亀の甲羅のようになっている。もしかしたら乾いた汚物なのかもしれないが。
「氷塊の槍っ、氷塊の槍っ、氷塊の槍ぁっ!」
矢継ぎ早、というより矢を継ぐ前に連打する勢いで氷の槍を放っていく。いい加減これで固まってくれたら楽なのだが。
「っと!」
いきなりの足払いを後ろから受けた。いや、これは足払いじゃなくて勢いよく水が流れてきたんだ。波に足をさらわれるような感じでよろけてしまう。
「おいルシル、いったいなぜ……ぶわっ!」
転ばないように踏ん張る俺が振り向くと、その顔に大量の水が浴びせられたじゃないか。
「な、ぶわっ、ごばっ!」
「ごめんゼロ! でも私もう我慢の限界っ!」
ルシルが海神の奔流を最大出力で使っているんだ。俺だから吹き飛ばされないで済んでいるが……。
「あー」
案の定、ウェルシュとその周りの汚物は水に流されて奥へ奥へと消えていった。
「後を追うぞ!」
「え~、ここから水を流しているから、ゼロ先に行って~」
「むーん、仕方がない。ならそのまま押し流せるようにじゃんじゃん水を出してくれ」
「うん、判った!」
追いかけないで済むと判れば現金なものだな。まあ無理強いはしてもしようがない。
はいはい、行くとしますか。
「まあそうしょげるなよ、俺が一緒に行ってやるんだからさ!」
「お前何かの役に立ってんのかよ~」
そう突っ込みを入れるけど、小さなドラゴンのフローラはそっぽを向いていやがる。
まったく、役に立たないなら肩から落としてやるぞ。
【後書きコーナー】
今回のサブタイトル、どこかで見た字面ですよね。
いつも応援ありがとうございます!
ちょっと変な話があったとしても、それこそ水に流しちゃってください!
そんな勢いでのラストスパート!
ウェルシュはもちろん、ウェルシュ菌ですね。そのまんまです。
悪天王っていうのは、王に点が付いて、玉。悪玉菌をひねった奴。そんな言葉遊びというかトンチというか。
そんなウェルシュ菌というのは食中毒とかになっちゃう大変な奴です。地面とか体内とかいろんな所にいる菌で、百度の熱湯でも種というか根っこというか、芽胞ってのは死滅しないって話らしいです。
暖かい季節や暖かい部屋の中で食べ物を置いておくと、怖いですね……。
皆様もご注意ください。
それでは~。