小さい大蛇
耳の奥が痛くなってきたぞ。これは俺に対して殺意を持っている奴が近くにいるって事だ。敵感知の副作用というか、これが俺に危険を知らせる反応なのかと言う所だがな。
「敵はこちらを認識している。俺を殺そうとしているぞ」
「気をつけてゼロ、閃光の浮遊球の灯りだけだと見えないと思うけど」
そうだな、ルシルは人間に近い身体だ。魔族というよりもう今は破壊神バイラマの身体だから余計なのだろう。純粋な魔族であれば赤外線暗視とかで暗闇でも敵が見えたのかも知れないが。
「ごめんねゼロ」
「別にお前が謝る事ではないだろう。俺だって夜目は利かないんだからな」
「うん……」
だが敵感知の反応はどんどん強くなってくるな。このままでは至近距離に来ても判らないかもしれない……いや!?
「近くにいるぞ!」
「えっ!?」
「閃光の浮遊球の範囲に入っている! 至近だ! 見えるはずの位置に……周りかっ!」
俺は近くの壁に剣を突き立ててみた。そのまま力任せに剣を使って切り裂いてみる。どうだ、これで何か動きがあるだろう!
「きゃっ!」
セイレンの悲鳴が地面のうねりと重なる。俺が内壁を傷つけた事で炎海竜がまた暴れ出したんだ。
「ゼロ、何かが近付いてくる!」
「そいつとは別の奴のはずだが……くそっ!」
ルシルが言うように前方から巨大な白い奴が何匹ものそのそとやってくるじゃないか。揺れる足下では体勢を維持するのも難しいし、さっきの白い連中より一回り大きいぞ。
そいつらが何かしゃべっているが……。
「こんな所まで異物が混入してくるとはなあ」
「ぐへへ」
うーむ、なんとも見るからに下品な奴らだ。
「お前たち異物は我ら燐波衆が取り込んで消し去ってや」
「黙れ」
俺の放った豪炎の爆撃が白い大きな奴らを直撃する。何匹かはこれで黒焦げになるし、後ろの奴らはこれで少しは落ち着いてくれるだろうさ。
「ゼロ~、落ち着くどころかもう消し炭だよう」
それでいいのだ。こんな奴に関わってはいられない。それ以上に敵感知が俺の危機を伝えているんだ。
「出てくるぞ……どこから……上かっ!」
剣を構えて天井を見る。岩壁のような内臓の内側から小さな切れ目が現れて、中から小さな蛇が出てきて……落ちた。
「ゼロ、敵はどこ!? どこにいるの!?」
ルシルが敵を探そうと躍起になってくれているが、もしかして俺に対する殺気の奴って……この落ちてきた小さな蛇?
俺の人差し指くらいしかない、小さな小さな蛇だ。
「おい人間っ!」
えっ!? 蛇がしゃべった……?
辺りを見てもルシルでもなくセイレンでもなく。かといって白い奴らは遠くにいるし声は低い物だった。今聞こえてきたのは金属をこするよな甲高い声。
「ここだここ、下を見ろよ人間っ! ぶっ殺すぞ!」
やはりだ。この小さな蛇が俺に向かって吠えている訳だ。
「なんだ蛇。俺に踏み潰されに来たって事か!?」
敵感知はまだ消えない。という事はこいつか誰かか、とても近くで俺に対して札を持っているという事だ。
「おい蛇、お前俺を狙っているんだろ?」
俺が話しかけると蛇はそっぽを向いて何も聞いていないそぶりをするものだから、一瞬踏み潰してしまおうかと考えるくらいだった。
「それともお前、寄生虫か? 炎海竜に巣食う」
「ち、ちがわい!」
甲高いキーキー声がさらに興奮で高くなる。
図星なんだろうな。まあ、剣で釘刺しにしてしまえば片付くのだろうが。
「いいよゼロ、なんか邪魔っぽそうだからさ」
ルシルは俺の顔をのぞき込んできたぞ。こうして見るとバイラマの身体とは言え、姿形は魔王の頃と瓜二つだからな。ルシルが魔王だった頃いろいろやった経験は引き継げているものの、身体的特徴というか特殊能力はその身体個別の物だ。だから今は使えないスキルがいくつか出ているみたいだが。
「邪魔っぽそうっていうだけで殺すのも忍びない。根拠があればいいんだが」
「うーん、よく判んないや」
「そうか……」
ひとまずこのうるさくわめく小さな蛇を捕らえてみようか。しゃべる事はできるからな、捕まえた後でも話はできるだろう。
そうして俺は小さな蛇に手を伸ばした。
【後書きコーナー】
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さて今回はちょっと名前だけ出てきたバイラマですね。
これは人間界、現実界からこのゼロたちがいる世界にアクセスしてきているという動きだったのですね。成功しているかどうかはさておき。
それがどういう意味を成すか、というと、皆様のご想像通り、かもしれませんね。
それとバイラマの名前ね。これはマハーカーラ(バイラヴァ)っていうヒンドゥー教の神様からいただいた名前です。作品の中の神様を指名する名前が宗教の中の神様の一柱とリンクしているように、そして破壊神という点でも意味合いが通じるのかな、と思って付けました。
宗教学は学ぶと勉強になるのですが。深みが増すと思いますけど信じ切っちゃうと視野が狭くなる事も考えられますからね、個人での対応が必要になります。
は~い、そんなこんなでお名前の話でした。
あ、また話し込んでしまった、また次回、上手く行けば次の日の太陽が昇っている時間帯に!
それでは~。