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立ち上がる悪意

 俺が振り返ると、女戦士ブレンダの驚いた表情が目に入る。


「馬鹿なっ!」


 ブレンダの視線の先には後頭部の弾けたブラド侯爵。彼だけ時間の流れが遅くなっているかのようにゆっくりと起き上がっていた。ルシルがその様子を見てつぶやく。


「ゾンビ、いや頭部を破壊されているから木偶デクか。飲んだポーションとやらがとんだ怪物を作ったもんだな」

「そうだな」


 俺は剣を抜くとブラドの腕を切り落とした。


「なんだこいつ……」


 腕を切り落とされても痛がる様子もなく、それどころか切り口から血が一滴も垂れない。まさに人形のような身体だ。


「本能、というほど脳は無いか。条件反射だけで動いているという感じか」


 俺の話にブレンダが何か考えているようだった。


「ああ、そういう事か!」

「理解したか?」

「うん、あれだよな、蛇が頭切り落としてもウネウネしてるやつとか、虫の脚を千切っても脚だけピクピクしてるのとか、そういうやつだろ!?」


 例えがなんだが、当たらずといえども遠からずといったところか。


「こういう奴は、こうっ!」


 俺は一度大きく剣を振るう。ゆっくりと鞘に納め終わったその時に合わせるかのように、ブラドの身体が数十の肉片に分解される。


「こんな危険な薬を造っているなんてな」

「あたいも王国が国境の小競り合いをいろんな場所でしているって聞いていて、それで回復薬がいっぱいいるんだろうなって思っていたんだけど」

「初めはそうだったのかもしれないが……」


 セシリアが奥の扉をのぞき込んで俺を呼ぶ。


「勇者ゼロ、こちらへ来てもらえないだろうか。見てもらいたいものがある」

「これは……」


 隣の部屋で見た物は、薄暗く光るランプで照らし出されたガラスの容器に入っている液体や水槽に入った動物の身体の一部、様々な実験器具と実験内容を記載しているであろう書類の束。

 俺に続いてブレンダも入ってきた。ルシルは前の部屋でゴブリンたちの面倒を見ている。


「なあブレンダ、あの侯爵と私兵たち以外にはもう人はいないのか?」

「そうだね、ゴブリンたちもあそこにいるだけが全部のはずだよ。だけもあたいもここには入ったことなかったし、知らない部屋に隠れている人がいてもそれは判らないよ」

「そうか」


 俺は資料をいくつか流し読みをしながらめくる。


「勇者ゼロ、見たまえこれを。石華病が進行した者の手だ……」


 セシリアが示した先のガラス容器には液体が入っていて、人間やゴブリンの手がその中で浮かんでいた。その手は開いた状態で固まっている。前にセシリアが説明していた、石華病、末端から石の華のように固まってしまう症状そのものだ。


「石華病という表現はしていないが、資料にも薬品の副作用や廃液の影響で手足が固まってしまうという記録が書かれている、特殊なポーションを造るために石華病の原因を生み出していたという事は間違いないな」


 俺はさらに資料を読み込む。


「セシリア、この実験結果が書かれた資料を見てくれ」

「これは、あ……」

「そうだ、回復方法。石華病の治療に生かせるかもしれない。といっても、清浄な水を与え続ける事が何よりの回復手段らしいが」

「確かに、固くする因子は人体への定着率が低い、継続的な摂取を行う事で蓄積され人体を固着させる、とあるな。なんだ、綺麗な水さえあれば治せるのか……。よかった……」


 ほっとしたのかセシリアの緊張が解けたように見える。


「そうなればここをどう閉鎖させるか、だな」


 俺は一つ考えた事を実行しようと思い、ルシルの所へ戻った。

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