隆起する竜気
海底なのに雨あられと火山弾が降ってきやがる。それに下からも火山の噴火で飛ばされる岩が俺たちを狙ってくるし、その全てがこっちに向かってくるんだ。
「これは明らかに操作されている! 意思のある者の動きだ!」
魔力を帯びた岩は円の聖櫃をすり抜ける。全方位で押し寄せてくる火の弾をどうにかしなくちゃならん。
「ルシル、セイレン、俺に続け!」
「ゼロが何をしても私がカバーするから!」
普段通りというか、ルシルはこういう時に肝が据わっていて頼もしいな。
「前方は俺が弾き飛ばす! 後ろを頼む!」
「いいよ、進んで!」
「よし、Rランクスキル発動、凍結の氷壁っ! 周囲に展開!」
俺の周りに氷の壁を作り出す。前方はこれから進んでいくから壁を作っていない。
「SSランクスキルを重ねて発動、旋回横連斬! 向かってくる岩はこれで打ち砕く!」
スキルを出しながらその勢いで前進する。ルシルたちは俺のから距離を取って攻撃が当たらないようにしつつ俺を追ってくる。
「後ろは任せて! Rランクスキル海神の奔流っ!」
ルシルの放つ水流で火山弾を近付けさせない。
追いつかれなければ問題は無いからな、このまま突っ切るとするか。
「目指すはひときわ大きいあの火山だ!」
「えっ!?」
「なんだセイレン、俺が逃げるとでも思ったのか」
「そうじゃないけど、どうして火山弾を避けようとして火山に向かっているのかって思って……」
普通の感覚でいったらそうだろうな。命を守るという点においては正しい選択だ。
「セイレン」
「は、はいっ」
強気で呼んだものだから少し驚かせてしまっただろうか。
「俺たちは何をしに来た?」
「あ……」
そうだ。俺たちは海底火山から逃げてきた訳ではない。
「ドラゴン退治、だろ?」
後ろでセイレンが息を呑む気配を感じた。
俺が目的としたのはあの巨大な海底火山。きっとそこに奴、炎海竜がいる。そう俺は確信しているんだ。
「ゼロ、前っ!」
「くっ、手が足りないっ!」
目の前に巨大な岩が飛んでくる。その大きさといったら、宮殿が一つ入るんじゃないかってくらい。
それも真っ赤に焼けただれた溶岩の塊だ。
「ちくしょうっ! ルシルっ、思念伝達を頼む!」
「了解っ!」
竜神の逆鱗を口に咥える。会話はできなくなるが左手が使えるようになって、会話は思念伝達でつなぐ。
『SSSランクスキル発動、重爆斬っ!』
両手で握った剣にスキルの効果を乗せて思いっきり降り放つ。
目の前の巨大な火山弾は中央から砕け散って丁度その穴が俺たちの通り道になる。
そして俺の剣技はその威力を留めずに火山へと突き当たっていく。このまま砕けてしまえ!
『いっけぇ!』
気合いを込めてさらに魔力を上乗せするぞ。これであの大きな海底火山も木っ端微塵のはず!
『のわっ!』
「ゼロっ!」
いきなり下から海水が突き上げてきて俺の攻撃が逸れてしまったじゃないか!
海底火山の上の方を少し削ったに過ぎない。これでは火山を砕く程にはならないぞ。
地面が大きく揺らいでその動きに合わせて海水に波ができる。俺たちがその波に押し流されているからそれが判ったが、何も考えていなかったらなぜ俺たちが動きをずらされたのか認識できなかっただろうな。
『だがしかし、それでもなお行くぞ! もう一度発動だ、重爆斬っ!』
さらに目標を捉えて剣を振り下ろす。もう放った後だ、これはどうこうできまい。
俺の放った剣撃が火山を割り大地を砕き……。
「ゼロ……ちょっと……」
ルシルが驚く。セイレンは言葉も出ない。
それもそうだろう俺の攻撃で火山も地面も割れたものだと思っていたからだ。
だがその期待は裏切られた。
『海底が……盛り上がっていく。それも見えなくなる程かなり先まで……俺の剣撃はあそこまで行かないはずだが……』
海底がひび割れてそこから溶岩が赤く顔をのぞかせる。その形が見えないくらい先まで続いているというのだ。まさにそのひび割れが蛇のような形になって。
「ゼロさん……」
セイレンがようやく口を開く。何だ、何が言いたいんだ。
「これが奴です。炎海竜が浮き上がりますっ!」
何だって! この延々と続く地割れが炎海竜によるものだと!?
それは流石に俺も驚くぞ。どれだけの長さと大きさなんだ!