胎動が引き起こす火山弾
海の水が揺らめいているように見える。透明な氷を透かしてみた時のような、水の中がゆらゆらと歪んで見えるのだ。
「ねえゼロ、段々温かくなってきてるんだけど」
俺には温度変化無効のスキルが常時発動しているから水温の上昇には気付けなかった。そうか、このゆらめきは温かい水が冷たい水と混ざってできた物か。
「ゼロさん、ルシルさん、地熱が噴き出してこの辺りの海を温めているんです」
「さっきも海底火山はあったが、ここは確かに数が多いな」
「そうだね、ゼロが言うように数も多いし一つ一つが大きい……」
炎海竜が近いのかもしれない。臨戦態勢はとっておくか。
「いつでも戦えるようにしておけよルシル」
「うん。セイレンと一緒に防御を固めておくね」
「ああ、それが助かる」
よし、進みながら剣を抜いて体制を整えておこう。いつどこから襲ってくるか判らないからな。
「ねえゼロ、あっちこっちで噴火が始まったみたい」
「そうだ……なっ! おわっ!」
真下にある海底火山から勢いよく溶岩の塊が飛んできたぞ!
水の中だっていうのに凄い速度だ!
「剣を取ったが仇になったか!」
両手が空いていれば二人をつかんで高速で泳げば火山から距離を空けられるんだが、剣で右手がふさがって、左手は竜神の逆鱗を口に押さえているから使えない。この状態では二人を引っ張って逃げる事ができない。
「Rランクスキル発動、氷塊の槍! 溶岩なら氷の槍で少しは威力も弱まるだろう! そしてっ!」
剣の先から氷の塊が槍となって飛んでいく。
その氷の槍が溶岩に突っ込んで弾け飛んでしまうが、それでも少し冷えたのか燃えたぎるような赤さは消え始めているぞ。それに速度も落ちてきている!
「Sランクスキル発動、剣撃波! 溶岩よ弾け飛べっ!」
スキルの連発で飛んできた溶岩の塊を次から次へと撃ち落としていく。剣の先から氷の槍を発射して近付いてくる火山弾は剣の衝撃波で弾き飛ばす。
だが相手は火山だ。いつまでこれが続くか判らないぞ。早い所二人を連れて火の玉が飛んでこない所へ退避しなければ……。
「ゼロ! 下のを避けても今度は上から降ってくるよ!」
「くっ、他の火山からも溶岩が噴き上がって、今度は落下する塊が降ってくるという訳か。どうやらここの海底火山はいくつも連動しているみたいだな! だとすれば、SSSランクスキル発動、円の聖櫃! 現れろ完全物理防御の壁よっ!」
よし、俺たちの周りに球体の魔力でできた虹色に輝く透明な膜ができあがった。これで火山弾から守れるはずだ。
「凄い、こんな能力まで持っているなんて……」
セイレンが驚いた眼差しで俺を見る。これが次には羨望へと移り変わって行くのだろうか。まあ今はそれどころではないけどな。
「と思ったが、まずいっ!」
完全物理防御の膜を突き破って火山弾が飛び込んでくるじゃないか!
SSSランクスキルだぞ、これ以上ないってくらいの最上級勇者系スキルだって言うのに、なぜっ……。
「危ないっ!」
ルシルが俺を押しのける。ちょっと待て、火山弾が突き抜けた事はルシルも理解したようだが、だからといって俺を突き飛ばすなんて……。
「きゃうっ!」
「ルシルっ!」
ルシルの肩を火山弾がかすめていった。
「だ、大丈夫……」
「無茶するなよルシル、お前より俺の方が頑丈なんだ、お前の代わりに俺がいくらでも受けてやるものを……」
「いいの……ゼロは炎海竜と戦わなくちゃならないんだもん。これくらいで怪我したら困るでしょ……」
くそっ、ルシルにこんな事を言わせるなんて!
俺の戦いもまだまだ甘いって事だ。
これ以上ルシルに傷を付ける訳には行かないぞ!
「ここは何とかしなければ……そうか魔力か!」
「魔力?」
セイレンが火山弾を避けながら不思議そうに聞いてくる。もうさっきまでの憧れの目ではなく戦いで真剣な視線を俺に向けるようになったな。
今はそれでいい。
「ああ。円の聖櫃は確かに完全物理防御だが魔法攻撃とかは素通りしてしまうんだ」
「でも海底火山に魔力なんて」
「いいかセイレン、火山弾そのものは物体かもしれないが、その周りを魔力で覆っていたら円の聖櫃は威力を発揮しない。それにこの火山弾自体が魔力を帯びている……いや、魔力から作られていると見た方がよさそうなんだ」
「え、でもそれじゃあ自然現象じゃなくて……」
その通りだセイレン。
「この火山弾は誰かが魔力で作った代物だって事だ」