国家転覆を実行した罪
なんだ、後ろの方が騒がしくなってきたが。
「やいやいやい!」
この登場の仕方、どうもやられ役の癖が抜けていないみたいだな。
「セイレン、姫を放せっ!」
やはり竜宮の戦士たちか。
勢い勇んでやってきたのはいいが、どうも状況を理解していないというか何というかだ。
「ちょっと待てポセイ、セイレンは怪我を負っているし戦う意思はない……と思う」
「あんたのお陰もあって海虎の六将とは戦わなくて済んだけど」
お前たちはな。六将と戦ったのは俺だから。
「後は氾濫首謀者のセイレンを捕らえれば竜宮は安定という訳だ! わーはっはっは!」
「おいおい勝手な事を。お前たち炎海竜ってのは知っているのか?」
「炎海竜? ぶわーっはっはっは!」
何がおかしいってんだ。マーマンの奴ら。
「炎海竜と言えばおとぎ話に出てくる海竜の事じゃないか。この大地を形作ったって話のな!」
「おとぎ話か。なあセイレン、お前の怪我はそれ……」
セイレンに促してみよう。本人の口から出ればまた少し話が変わるだろうか。
「うん、あたしが戦ったのは間違いなく炎海竜だったよ。いや、戦いにすらならなかったよ」
ほら見ろ。セイレンの言葉とこの傷付いた様子を見てマーマンたちも驚いた様子だ。
それはそうだろう。マーマンたちは海虎の六将にすらまともに勝てないくらい弱いんだからな。それよりももっと強いセイレンがこの有様だ。
「ま、まさか、それって本当の……」
「竜宮の戦士たちよ、あたしの言葉に偽りはないよ」
セイレンの言葉を聴いてポセイたちの顔がさらに青ざめていく。
「そんな馬鹿な。だったらなぜ竜宮に反旗を翻すなんて事をしたんだ!」
「それは理解してもらうには難しい話なんだけど……」
あ、出た。話せば長くなる話。
「長くなりそうか?」
「あ、えっと、かいつまんで話すね」
「そうしてくれ」
「簡単に言うとね、あたしたち海虎の民はね、炎海竜の予測を立てていたのよ。最近それが活発化して行って、あちこちに災害を広め始めたの」
「最近海底地震が多かったりするのもそうなのか……?」
ポセイの質問にセイレンは素直にうなずいて返事する。
「あたしたちだけで炎海竜を退治できればよかったんだけどそうもいかなくて。そうこうしているうちに竜宮に狙いを定めたっていう占いが出てね、初めは乙凪を通してあたしたちも協力して撃退しようとしてたんだ」
「強力!? お前が姫様をたぶらかして家出させたりしたんだろう!」
ポセイがうるさく騒ぐものだから、俺が一発拳骨をお見舞いしてやろう。
「いったぁ……何するんだあんた!」
「うるさいよお前たち、少しは黙って聴けよ!」
「だってこいつは竜宮に武力で攻め入ろうとした極悪人なんだぞ! 海虎だって竜宮の一都市だったのに、それが国を転覆させようとしたんだ!」
「馬鹿言え。セイレンたちが本気で国家転覆なんか考えていたらもうとっくにできているだろう? それくらいの力の差はあると思うが、人的被害をなるべく出さないようにしていたから……まあ手加減していたから余計お前たちにはそう見えるんだろうけど」
「て、手加減だと……!」
俺にはそうとしか思えなかった。やろうと思えばセイレンの力だけでも竜宮の城は陥落していただろう。俺も剣を交えて相手の力量は判るつもりだ。
ほら、セイレンも済まなそうにうつむいてしまった。
「まあいい。セイレン、それでお前たちは協力できないのならいっその事武力で制圧してその戦力を束ねて炎海竜に立ち向かおうとしていた、そうだな?」
「うん……まあそんな所」
またポセイが割って入ってくる。
「だが追放された姉王女は病に倒れて死んだと聞くぞ。お前はそれを恨んで刃を竜宮に向けたのではないのか!?」
「そう、確かに母上は病でお亡くなりになった。父もお前たちの追っ手に……」
海の中だからよく判らないがセイレンの目が赤くなっている所を見ると、泣いているのかも知れない。
その鋭い眼光はポセイたちをおののかせるには十分だったようだな。