海中での立ち回り
海の中を上昇していく。まだ周りは太陽の光が届かない深さで視野は閃光の浮遊球が頼りだ。
光は面白いもので、光の当たる先が無いとどこまでも真っ暗に見えるんだな。だから今、真っ暗な中に俺とルシル、そして俺たちを足止めしようとしているマーメイドが浮かび上がっているだけ。
『Sランクスキル発動、風炎陣の舞! 爆発の勢いで駆け抜けろっ!』
左手から炎の渦を海中に噴射するとその勢いで俺の身体が押し出される。海の中を自分で泳ぐより断然速いぞ!
「何だこいつ、いきなり海の中で炎の渦を作りだしたぞ!」
マーメイドも確かに驚くだろうさ。当然海の中だから俺の炎はあっという間に消えてしまう。だが勢いが付けば速く動く事はできるんだよ!
『Sランクスキル発動、剣撃波っ!』
勢いよく抜いた剣の衝撃波は海の水を切り裂く。
「ガバッ!」
マーメイドは両手に持った短槍二本を交差させて俺の衝撃波を防いだつもりのようだが、それは甘いってもんだ。
『Sランクスキル発動、風炎陣の舞! 回り込んで急に向きを切り替えるっ!』
海の中でも鋭角に曲がってマーメイドに狙いを付ける。背後はがら空きだからな!
「くっ、二槍のライラック、このまま簡単に倒されはせぬぞ!」
流石にマーメイド、速い! 俺が背後から狙う剣筋を前進で距離を開けて躱す。俊敏な動きは俺より一枚上手という所か。
『だが俺だって数々の戦いをくぐり抜けてきたからな。Rランクスキル発動、岩の板壁』
俺の背後に小さいながらも岩の板を浮かせてみた。
『そこにSランクスキル発動、風炎陣の舞だっ! 岩の板があれば炎の渦の反発する力も増すっ! そしてぇ!』
ライラックがまた二槍を構えて俺の攻撃を受けようという魂胆だな。だがその手は食わん。
『Rランクスキル発動、凍結の氷壁! 取り囲め氷の壁よ!』
「なっ、これは!?」
ライラックの周りに氷の壁を作ってやった。これで逃げる場所はなくなる。
『食らいな。SSランクスキル発動、旋回横連斬!』
回転する刃がライラックを襲う。面倒だからな、構えているガードの上から力押しだ。
もちろんライラックはこらえようとするがそれは無理。俺の作った氷の壁が退路を断っているしその分厚い壁に押しつけられて俺の攻撃と挟み撃ちになっている状態だからな!
「ぐっ、きゃぁっ!」
二本の短槍が砕ければもうライラックに俺の攻撃を防ぐ手立てはない。俺の回転する刃がライラックの鎧を斬り刻んでいく。
『よっと』
俺は途中でスキルを止めてやった。これ以上斬り刻んでしまっては胸当ても取れてしまうからな。
だが氷の壁に打ち付けた時に失神したのか、ライラックは力なく氷の上に倒れ込んでしまう。
『ちょっとやり過ぎたかな?』
『ゼロは手加減が難しいからね、しょうがないよ』
ルシルはゆっくりと泳いでくる。ここに来る頃にはもう戦闘は終了だ。
『弱い相手だと特に調整が難しいんだよ』
『大変だね、ゼロも』
『まあな』
『お疲れさんね』
『ああ』
さてと、殿とか言いながら俺たちの足下にも及ばなかったが足止めにはなったのかもしれないな。だいぶ時間を使われてしまった。
『さてと、そうしたら乙凪を捜すにはどうしたらいいかなあ』
とりあえずライラックを縛り付けて話を聴いてみようかな。