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持っていた竜神の鱗

 俺が腰の剣に手を当てた所に乙凪おとながすがりつく。腕に抱きつくというかしがみつくというか。

 マーメイドの上半身は女の子だからな、それが抱きつくとなると、まあなんだ。

 柔らかいという事だ。


「待ってください、これは何かの間違いで……」


 乙凪おとなが俺に追いすがり、ポセイたちが横槍を入れる。


「姫! 姫は水膜から外へと出られますが、陸の生き物は水の中を自由に行き来できません!」


 言われてみれば普通に考えるとそうなのだがな。

 部屋の中には俺とルシル、そして乙凪おとながいる。部屋の半分は棘のある珊瑚で覆われているが、もう半分は海中だ。部屋と海中の境目には泡の膜のような物があって部屋の中の空気を海中に漏らさないようになっているらしい。


「ゼロさんが珊瑚でお怪我をなさってはと思って」

「俺がこの珊瑚程度を破壊できないと思っているのか?」

「え!? この珊瑚は火ぶくれ珊瑚と言って、この棘に触れた者は火傷のように皮膚が膨れ上がってしまうのです! 海の生物にはあまり効かない毒ですがあなたたち人間には猛毒と言っていいでしょう」

「ふーむ……」


 俺は完全毒耐性を持っているからな、珊瑚の毒でどうこうなるなんて事はないのだがルシルが触れば確かに大変な事になりそうだ。


「おい部屋の外のマーマンたちよ、乙凪おとなも部屋に閉じ込められているがそれはいいのか?」

「馬鹿を言え、姫は海中を通ればそのような部屋からは簡単に抜け出せるさ! マーメイドが海に入れない訳がないだろう!」

「そうだよなあ。じゃあ俺が乙凪おとなを人質にするという事は考えていなかったのか?」

「えっ!?」


 これにはマーマン三人男も乙凪おとなも驚いたようだ。


「もしかしてそれって想定外?」


 一気に周りの雰囲気が沈んだものになる。これは俺の肌感覚で判るぞ。

 ルシルは別に気にした様子はないというか、他人事のように見ているな。


「そ、そそそんな事を、俺たちが許す訳……」

「だって珊瑚の壁で封鎖しているんだろう? お前たちが入ってこられるなら俺たちはそこから脱出すればいいだけだし」

「ぐっ……」


 ポセイたちは俺の強さを知っているからな。全身の鱗を引っぺがしてトゥルットゥルにしてやったんだし。その時の恐怖と衝撃はトラウマになっているだろうさ。


「さあどうする?」


 言っといてなんだが俺も意地が悪いなあ。


「くっ、卑怯な……」

「お前が言うかよ」

「ぐぬぬ……」


 こうしていても埒が明かないから、からかうのもいい加減にしようか。

 見ればルシルも同じような気持ちになっているみたいで、つまらなそうにしているしな。


「判った判った、乙凪おとなを人質にするつもりなんてないよ」


 そう言いながら乙凪おとなを海の方へ放り投げると乙凪おとなは壁から水しぶきを上げて海中に飲み込まれていく。

 乙凪おとなはそのまま他の魚と一緒に泳ぎながら俺たちを見ている。


「という訳で、ルシル」

「うん」


 俺が懐に入れていた竜神の鱗を口に咥えると、同じようにルシルも持っていた竜神の鱗を口にする訳だ。


「あ!」


 驚くポセイたち。

 こいつらの魚脳にも困ったもんだ。

 そもそも俺たちはこれを使って海の中を移動してきたんだろう?

 一緒に来ていたのに何でもう忘れているかなあ。


「さてと」


 俺はルシルの手を取って壁になっている水膜に一歩踏み出す。


『ほう』


 空気の入っていた部屋から海中に移動しても空気の膜は破れない。部屋は部屋のまま。変な感じがするなあ。

 だがそれよりも重要なのは、思った通り俺たちが海の中に入っても竜神の鱗で息はできる。


『やっぱり魚の脳みそってのはたかが知れているのかなあ』

『どうだろうね……』


 ルシルも肩をすぼめながら俺と手をつないで海中を歩いている訳で。

 普通に部屋から出られたという事だな。

【後書きコーナー】

 いつもお読みくださりありがとうございます。

 ブックマーク、評価いただき嬉しいです。


 活動報告にも書きましたが、集計してみたらなろうの全作品の上位1%に本作が入っているんですね。

 本当にありがたいものです。

 続けられる元気の源、ブクマ、評価が励みになっています。引き続き楽しんでもらえる作品にできるよう頑張ります!

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