ゴブリンたちの解放と契約の解除
ルシルが手錠を外し、次々とゴブリンたちが解放されていく。首から吊されていた血を溜める受け皿も外して身体一つとなる。
ゴブリンたちは着の身着のままだがそれは普段も同じ。
「ブレンダ、説明を続けてもらおうか」
俺に促されてブレンダが話し始める。
「この工場は回復薬を造る場所なんだ。元々アボラ川は良質の水の上に水源には魔力鉱石が採れる山があって、そのせいか水にも微量な魔力が含まれていたらしいんだ」
「水に魔力が、ね……。それは興味深い」
「だろう? それで元気の出る水として人気があったんだけど、ここの領主のブラド侯爵がこの水でポーションを造り始めたんだ。元々魔力を帯びた水だったから、普通のポーションよりも効き目が強いと評判だったらしい」
確かに回復薬は素材によって効果が上がったりする。
「だがそれとゴブリンは関係がない……いや、そういうことか」
「流石勇者は気付いたみたいだね」
「どういうことだ、女戦士よ」
セシリアは不思議そうな顔をブレンダに向ける。
「ポーションの効果をより強力にするために、生命力を素材に加えたんだよ」
「生命力?」
質問をするセシリアに、別の所から返事があった。
「生き物の血だよ!」
壁の上の方に設置された作業用の足場の上に男が立っている。
ブレンダはその男がいることを認めて叫ぶ。
「ブラド侯爵!」
「やはり傭兵程度では飼育小屋の管理もできないのか」
ブラド侯爵と呼ばれた薄気味の悪い男が俺を見る目に嫌悪感を覚える。徐々に耳の奥の痛みが強くなった。敵感知が発動したということは、あの男は俺に敵意を向けている事だ。
「飼育小屋とはたいした物言いではないか。お前がブラド侯爵とやらか」
「そう、我こそはムサボール王国の中でも治癒を司る侯爵のブラドであーる! そこな下民、我の治癒に必要なゴブリンどもを解き放ちおって、許さんぞう! それにそこな傭兵お前もだ、簡単に負けおってからに。どうせ前金だけもらって元から戦うつもりがなかったのであろう!」
「心外だな。あたいは傭兵だ、自分の命の次に契約を重視する。裏切りなんかしたら次から仕事が来なくなるからな。あたいが負けたのは確かだから追加の報酬はもらわないけど、不義理を働いたつもりはまったくないよ!」
ブラドは高い場所から見下すように眺めながらブレンダの話を聞いていた。
「こうなってはゴブリンどもはまた拾ってくるしかない。どうせもう弱っていて使い物にならないところだったからな、丁度ええわい。よぉし、者共、出会え出会えーい!」
ブラドが声を張り上げるとそれに呼応するように扉という扉から武装した男たちが入ってくる。装備に統一性がないところは傭兵か私兵の類いと見えた。
「こいつらは王国に弓引く反逆者よ。討ち果たした者には褒美を取らす、斬れっ、こやつらをたたっ斬れぃ!」
高い位置から男たちへ指示を飛ばすと男たちが一斉に襲いかかってきた。
「ルシル、お前は安心してゴブリンたちを解放してやってくれ。セシリアはルシルを守ってやって欲しい。その腰のレイピアは伊達ではないのだろう?」
「いいだろう、その挑発に乗ってやろうではないか」
「頼もしいな」
「たっ、たのも……いひゃ、そんな事はあるけどな!」
真っ赤に茹で上がったセシリアはレイピアを構えてルシルをフォローする。解放されたゴブリンたちは部屋の隅で身を寄せ合って固まっていた。
「ブレンダ、ブラドとの契約は終了と思っていいのか?」
俺は骨砕きを持ったブレンダに問いかける。
「そうだな、契約は大事だがあたいの命を奪おうとするなら契約破棄だね!」
ブレンダは腰に下げていた金貨袋を投げ捨てる。散らばる金貨に男たちが群がってきた。
「こうなったらあたいも戦うさ。報酬は……そうだね、解呪してくれたことの礼ってのはどうだい?」
「馬鹿言え、SSランクの装備二つの解呪なんて家が買えるくらいの価値があるんだぞ」
「なら安い物じゃないか。あたいは城一つに匹敵する強さだってのを、ここで証明してあげっからさ!」
そう言うとブレンダは骨砕きを振り回す。その一振りごとに男たちが振り飛ばされていく。解呪したことで本来の力が発揮され、軽くなっただけではなくその威力も増している。
「さあさ、まだあたいの力はこんなもんじゃないよ!」
【後書きコーナー】
誤字脱字報告をいただいたので記載します。
そこな、という表現ですが、其処な(そこな)=そこにいる、そこにある、そこの、という意味使いました。
相手を見下した時とかに使われる事が多いようで、そのため、偉そうにするキャラ、ブラド侯爵に当てはめて使ってみたところです。