竜宮城
おお、これはすごい。
俺とルシルは竜神の鱗を口に咥えて海に潜ったが、息ができるし苦しくない。どんな仕組みかは判らないがこれはすごいな!
『ねえゼロ、この竜神の鱗を使うと海底散歩もできるんだね』
『そうだな。ピカトリスやセシリアたちにも教えてやりたいな』
『うん』
俺とルシルは思念伝達で思念の伝達ができるからな、言葉を発しなくても意思の疎通は問題無い。ただまあこのスキルはルシルの能力だから、俺が乙凪たちとは話せないんだけど。
『ゼロ、マーマンたちが何か指さしているよ』
どれどれ。ポセイが示す方向には魚の群れがあるな。
海はそれなりに透明度が高いが、もやのように曇っている部分もある。乙凪が教えてくれたが、小さい虫のようなものが海の中に漂っていて、それがもやのように見えるのだとか。
そうした小さな生き物がいない海はもっと澄んでいるとも聞く。澄み切った海は生き物が住まない死の海だという事らしい。
『これだけの魚がいるんだ。この辺りの海は豊かなのだろうな』
『そうみたいだね』
『ここから竜巻で魚が飛ばされたのかなあ』
『どうかしら……』
ポセイたちが魚の群れの間を縫って泳いでいくぞ。岩場の影や昆布の林を越えてどんどんと進んでいく。
乙凪もマーマン三人男の後を追っていく。
『ルシル、俺たちはマーマンたち程速く泳げないんだ。その事を思念伝達で伝えてくれないか?』
『え、ゼロは好きでゆっくり進んでいるのかと思ったよ』
『そんな訳あるか。俺はそこまで泳ぎが得意じゃないんだよ。泳ぐだけならできるが、あんな魚みたいな速度では人間の限界を超えている』
『まあそうかもね。てっきり超加速走駆とか使わないで海の底を楽しんでいるのかと思ったよ』
『超加速走駆だって瞬間的なスキルだからな。それにあくまで地上での高速化だし』
『そっかそっか、ごめんね』
そう言いながらルシルは俺の腕にしがみついてきた。
いったいどういうつもりだ?
『じゃあ、行くよ』
『へ?』
『Rランクスキル、海神の奔流!』
それか! 船を高速で進めていたスキル。ルシルが俺たちの背後に伸ばした手から水流を噴き出させて、その圧力で前進するつもりだ!
『ごわぁあぁあぁ!』
『ゼロ、口を開けたら竜神の鱗がどっか行っちゃうよ!』
『そんな事言ってもだなあ、この水流は……速すぎだろう!』
ほら、マーマンたちもあっという間に追い抜いてしまったぞ!
水流でかき混ぜられた海底の砂が舞い上がって、俺たちの通った跡が煙みたいになっているし、魚の群れも必死になって俺たちから遠ざかろうとしているじゃないか。
『これじゃあ海底散歩どころじゃないな……』
『ねえゼロ』
『どうした?』
ルシルがスキルを弱めていくと、それに合わせて速度も落ちてきた。
『あれ』
珊瑚の森を抜けると、そこには巨大な建造物が。
地上にある王侯貴族の宮殿と変わりがない、石や珊瑚で装飾されたきらびやかな建物だ。
『宮殿……?』
『ちょっと待って。マーマンたちに聞いてみるから』
ルシルが思念伝達を使ってポセイたちに問いかけてくれる。
俺も思念伝達が使えるようになると楽なんだけどな、勇者系には覚えられないらしい。
『あれが竜宮の都、竜宮城だって』