息継ぎの検討
マーマン三人男は陸の上でも活動ができるので乙凪を運んでもらう事にした。
俺が改めて大きな水瓶を造り、後は太い木の棒を二本使い水瓶を挟み込むようにして神輿のように二人がかりで持ち上げる。前後と水瓶を支える役とで三人とも働いてもらうんだ。なにせ、その水瓶に入るのは乙凪だからな。竜宮の戦士とすれば拒否できる訳もない。それどころか名誉にすら思っているだろう。
「姫様、水瓶の具合はいかがですか?」
「ポセイ、とても快適ですわよ」
「そうですかぁ~、でへへ……」
マーマンが恥ずかしそうに顔を赤らめるというのもなかなか見られない光景だな。
「ウブね~」
「そう言ってやるなよルシル」
「そうね、彼らからしたら捜しに捜した姫様だものね、浮かれるのも仕方がないよね」
「ああ。ひとまず海に出たら竜宮に案内してもらおう」
「でもさ、私たち海の中ってあまり深くまでは潜れないよ?」
「そう思ってな、俺に考えがあるんだ」
「どうるすの?」
ルシルの期待している眼差しが痛い……。
「円の聖櫃を使うんだ。完全物理防御だから水が入ってくる事もない」
「でもそれだと時間が限られちゃうんじゃ」
うっ。ある程度は潜れると思ったんだが、長時間だと維持する魔力も辛いか。
「それもそうだなあ。あまり時間を稼げないと行動範囲が限られてしまうな……。もう少し考えるか」
「そうだね、私が魔力供給を手伝って、もっと大きくするとか」
「そうすれば少しは長く呼吸できるな。まあ行ける所まででもいいか」
「うん」
どうにかなるだろうし、どうにもならなくなったら陸に上がればいいか。
「あの……」
「なんだ乙凪」
「よければこれを」
ん? 魚の鱗か? それにしては大きい。俺の手のひらくらいの大きさはある。
「これは?」
「これは竜神の鱗といって、陸の生き物が海の中でも息ができるようになる魔法の道具なのです」
「そんな物があるなんて」
なんて便利なんだ。
虹色に光る大きな鱗。水中で呼吸ができるようになるなんて凄いな。
「よければこれをお使いください」
「いいのか?」
「はい、わたくしたちには必要ない物ですから……もう」
何か引っかかる言い方だが、まあいい。
「ありがたく借りるとするか。二枚あるからな、一枚はルシルが使ってくれ」
「うん、借りるね。これで息継ぎについては解決したかもね」
「はい。どうぞお使いくださいね」
ポセイたちがうらやましそうに見ているぞ。
「お前たちマーマンはこれがなくとも息ができるだろう?」
「あ、ああ。俺たちは竜神の鱗がなくても海の中で息ができるのは当然だ!」
「じゃあ何でそんなうらやましそうにしているんだ」
「だって……」
あー。そうか。
「もしかしてお前たち、乙凪から俺が物をもらったからそれをうらやましがっているのか!?」
「あ、うぐぅ!」
図星か! 判り易すぎだろう!
「別にこれは俺がもらった訳ではない。必要なくなったら返すから」
「そうか! それならいい。存分に使ってくれよな!」
言われなくても使うって。
「あの……」
「ん? ああ」
乙凪は水瓶に入っているから俺たちよりも少し目線が高い。だからだろう、真っ先に見つける事ができた。
「海、だな」
「はい!」
俺にしてみても久し振りの海だ。潮の香りが鼻をくすぐり、波音が耳に寄せてくる。
「クーデターなんて話がなければ海水浴でも楽しめたのにな」
「事が片付いたら一緒に泳ごうよ!」
こういう時、ルシルの無邪気さに救われるなあ。
「そうだな、戦いなんて早く終わらせて海で遊ぶとするか!」
「うん!」
俺とルシルは竜神の鱗を口に咥え、少しずつ海の中に入っていく。
本当にこれで息ができるのかな。ちょっと心配だったりする……。