プールにドボン
ポセイたち竜宮の戦士、いわゆるマーマン三人男だが、なんだか黒焦げになった身体にひびが入ってきているぞ。
気持ち悪いから奴らを小屋の外に並べてみよう。こうやって見るとただの焼死体だけど……下半身は魚だからな、焼き魚と言ってもまあなんだ。
「おいルシル、腹の虫が鳴っているぞ」
「べ、別に、だ、大丈夫だし」
そういえば今日はまだちゃんとした食事をとっていないなあ。
「あの……ゼロさん」
「なんだ乙凪。お前はそこで座っていなよ。魚の足じゃあ立っているのも辛いだろう」
「ありがとうございます。そうしましたら彼らに水をかけてあげてもらえますでしょうか」
「水? かけるだけでいいのか?」
「できれば海に入れてあげたいのですが……陸上ではそうも行かないと思いまして」
「そうか……それだったら」
少し小屋から離れた辺り……ここだったらいいかな。
「Nランクスキル発動、工作。木枠と粘土を使って掘った穴の周りを固めて……Sランクスキル発動、風炎陣の舞で焼き固めるっ!」
「そっかあ、ゼロは工作使えるようになっていたもんね、粘土を焼いて耐水レンガを作ったんだ!」
「そういう事!」
俺が作った穴にレンガで押し固めた枠を敷き詰めておけば……。
「後は井戸から水を引くだけだね」
ルシルの言う通りだ。井戸の水を吸い上げて穴に注ぎ込むと、簡易的だがプールのできあがりだ!
「すっごいゼロ! こんな簡単にプール作っちゃった!」
「そこにこいつらをぶち込めば……」
ほいほいほいっと、炭みたいになったマーマン三人男を放り込むと、水を得た魚というのか何というのか、見る間に身体中の焦げが割れて剥がれてきたぞ。
「ぶっ……はぁっ!」
「げほっ、げほ……」
氷に閉じ込められた小魚が氷を溶かしたら元気に動き回っていたっていう話を沿海州の連中から聞いた事があったが、まさかそれと同じような事がマーマンにも通用したのかな。
「ま、まさか俺たち……」
「生きてるぅ~?」
プールの中ではしゃぐマーマン三人男。まあ、男がプールでバシャバシャ遊んでいるのを見ても俺はちっとも面白くはないのだが、それでもこうして生きていたのはよかった。
「それにしてもお前たち、死んだんじゃなかったのか」
「俺たちは別に死んだとは言っていないが」
「そりゃあそうだろう、死んだ奴は死んだとは言えないけどさ、心臓も止まってもう生きていないかと思ったぞ。身体だって焼け焦げだらけだったし」
見ればもう身体の焦げは無い。それどころか俺が剥がした鱗だってうっすらと戻ってきている。
プールに浮いているのは剥がれた焦げ。これは後で掃除させよう、こいつらに。
「俺たちマーマンは仮死状態というか、ああいう場面で身体を一時停止させる事ができるんだけど、実際自分でやったのは初めてだったからなあ。驚かせたのなら謝る」
「いやいや、別に俺はいいんだけど。お前たちの生態もよく知らないからさ。マーマンの生命力には驚いたよ……って」
いきなり乙凪が飛びついてきたぞ! 完全な不意打ちだ。俺は乙凪の勢いそのままプールへ。
ばっしゃーん!
「ぶわっ、な、何すんだよ乙凪っ!」
「ゼロさんありがとう! 大好き!」
プールの中で俺にしがみつく乙凪。しがみついている。いや、抱きついている?
「あ……えっと」
こうなると今プールに入っていない人はただ一人なんだよな……。
「ルシルも入るかい? 気持ちいいよ、プール」
「そうね、女の子に抱きつかれて気持ちいいでしょうねぇ」
「こ、これはだな、不可抗力というか、こういう礼の仕方というかだな」
「そんなの、判ってる……よっ!」
ぬわっ、ルシルも俺めがけて飛び込んでくる! この勢い、まともにぶつかったら痛い。少し後ろに動きながら両手を広げてルシルを受け止めるしかない!
「Rランクスキル海神の奔流!」
「わばばばば!」
ルシルの手から出てきた水流が推進力となったのか。ルシルが俺を抱えながらプールから飛び出す。いったい何を……。
「あ」
俺が出た後のプールで放電が起きていた。これってもしかして。
「あ、俺たちが帯電していた雷撃、プールに流れ出ちゃったかな?」
「そういうもんなのか!?」
「よく判らんが、そうなのかも知れないなあ」
って、水の中でビリビリってなっているじゃないか! ああ……乙凪が……。
「あばばばば!」
乙凪は耐性、無かったんだろうな。