親の雷
なんだ、背筋が寒くなる。
『セイレン……セイレン……』
どこからだ。脳内に直接話しかけてくるような、思念伝達みたいな感覚だ。
「お母……様」
母親だと?
「ひぃっ!」
ルシルに治療を施してもらっていたマーマンが怯えているだって? それも急にだ。
「お、俺たちは竜宮の指示に従っただけだ……」
「そうだ、竜宮への反逆は重罪っ! それを俺たちは裁いたんだ! 反逆者に文句を言われる筋合いばぎゃっ!」
わめいていたマーマンに雷が落ちただと!? こんなにいい天気だというのにか!
「ゼロ!」
「マーマンはどうだ」
ルシルが首を横に振るっていうことは、もう事切れたか。黒焦げになって仰向けに転がっている。その姿を見れば誰もそう思うだろう。
「おいそこの……えっとポセイと言ったな、もう一人のマーマンを連れて小屋に入れ!」
俺は呆けた顔で宙を見ているセイレンを小脇に抱えたまま小屋へ向かおう。大丈夫だ重さはたいしたことないし俺の足なら落雷でも躱しながら行ける!
「ルシルは……よし、もう小屋に入っているな」
「速く! 速く中へ!」
「よしっ!」
目の前に雷が落ちるが少し位置はずれている。この分なら大丈夫だ。
岩で出来た小屋だが草原に何もない所で立っているよりはマシなはず。
「よっせぃ!」
セイレンを抱えて小屋の中に転がり込めばもう大丈夫。
「ふぅ。急げマーマン!」
「はぁ、ひぃ……」
息が上がっている。落雷が近くに落ちたりすると見ているこっちがヒヤヒヤするぞ。
「ポセイ……」
「どうしたホッカイ!」
「カイセンもやられた……。俺もさっきの傷でもう……」
「情けない事を言うな! 小屋はもうすぐだ、俺が絶対にお前と一緒に駆け込んでやるからな!」
「ポセイ……」
マーマンたちが俺たちのいる小屋に駆け寄ろうとしているその上だ。
「危ないっ! 雷が鳴っているぞ!」
マーマンたちも気が付いたのだろう。
「ポセイ!」
「なっ、ホッカイよせっ!」
マーマンの一人ホッカイがポセイの身体を突き飛ばしやがった。転がるようにして倒れるポセイ。そうして辺りが一瞬真っ白に染まって、直後の轟音だ。
「ホッカイーっ!」
ポセイの叫び声も虚しくホッカイは雷に打たれて真っ黒焦げになっちまった。
「来いっ! お前までやられるつもりかっ!」
俺は無理矢理にでもポセイの腕をつかんで引きずり込んでやる。
ほうら言わんこっちゃない、さっきまでポセイがいた所に雷が落ちてきた。
「ホッカイ……カイセン……」
悔しいだろうなあ。あんなに握りこぶしを地面に打ち付けて。
『それで隠れたつもりか……』
くそっ、何だこいつ。また頭の中に語りかけるような……。
『その程度、無意味と知れ!』
それでまた轟音だ。雷撃を受けたせいで辺りが激しく揺れるぞ!
まったくどんな強さだよ!
「ゼロ、まずいよ天井が!」
一撃を受けて天井に穴が空いただと!?
晴れた空が目に飛び込んでくるけど、それでも雷は落ちてくるんだ。
「これは困ったな……」