海虎の姫
ポセイたちマーマン三人はどうやら俺の足にもついてくるようだ。
だが、ヒレでよちよち歩くようなものではなく、何というか、魚の下半身でうまく跳ねるという感じ? 人間で言うなら両足揃えてジャンプして進むみたいな。
思ったよりそれが速い。
「なかなか速いじゃないか。地上に合った進化でもないだろうに」
「何世代もかけて身体の造りを変えていく、はぁ、だけではなく、ふぅ、環境に対応する事、はぁ、こそが大事!」
言うなあ。息継ぎのたびにぴょんぴょん跳ねるけど、それも努力の結果とすればたいしたものだと思うよ。慣れない環境で生きていくのって大変だもんなあ。
「ちょっとじんときた」
「何だって?」
「いや、何でもない。さあそろそろだぞ。あの岩で造った小屋が俺たちの家だ」
「家……」
まあこんな掘っ立て小屋だ。スキルでちょちょっと造ったやつだからな、みすぼらしいとは思うが。
「おお……」
「これが地上の建造物か」
おお、なんかこのマーマンたち目をキラキラ輝かせて岩小屋を見ているぞ!
もしかして海から上がってきて地上の建造物を見るのは初めてなのか。だとしたらこの反応は嬉しいけどちょっと申し訳ない気もするなあ。
「ま、まあなんだ。お前たちはそこで待っていろ。俺の所にいるマーメイドを連れてくるから」
「はいっ!」
なんだか俺に対する受け答えも変わってきたぞ。まあこれが良いのか悪いのか……。もっと凄い建物を見た時に掌返しで対応変わらなければいいが。
マーマン三人男は置いといて、小屋に入ろうか。
「おーい、戻ったぞー」
水瓶から水しぶきを上げて出てくるなんて、セイレン、よっぽど待っていたんだろうな。
「遅い~! ぶー!」
「そうふくれるなよ。魚は……あ、袋をあいつらに使っちゃったから持って帰れなかったんだ。また後で取りに行かなきゃな……じゃなくて、セイレン喜べ」
「なに?」
「お前の仲間らしい奴らを連れてきたぞ。ちょっと水瓶ごと持って行くからな、揺れるから注意しろよ」
「うん!」
よし、っと。人が入るくらいの水瓶。それになみなみと水を入れているんだから重いは重いんだが。
「Sランクスキル発動、重筋属凝縮。おお、全身に力がみなぎる!」
これなら重い思いをしないで持ち運びができるってものだ。
「ひゃあ、すっごい!」
持ち上げられてご機嫌だなセイレンは。軽々と持ち上げられているのだから、驚くのも無理はないとは思うんだがな。
「わぁ、高い~。あははは!」
俺の力がどうこうって事じゃないらしいな。まあいいけど。
そのまま小屋の外へ持っていこう。あいつらに会わせればこれで一件落着、引き取ってもらおう。
「ほれ連れてきたぞ……っと」
一応ゆっくりと水瓶を置いてやる。これも心優しい勇者の行動だ。
「お、おお!」
マーマン三人男がセイレンを見て驚いているな。
ん? なんだか様子が……。
「こやつ、海虎のセイレンだぞ!」
「セイレン姫か!」
「うぬぅ、ここで出会うとはっ!」
どうやら三人男が探している竜宮の姫ってのとは違うようだな……。変に殺気立ってるし、一報のセイレンは怯えて水瓶の中に入っちゃうし。
「おいおいどういう事だよ。説明しろよ」
「ええい問答無用! きえぇぇーっ!」
マーマン三人男は手刀を構えて飛び込んでくるけど、それくらいじゃあ水瓶を割るどころか素手の俺にだって勝てないだろうが。
「まあ落ち着け……」
俺が受け止めようとすると、奴らの手刀は空を切る。届かなかった……? いや。
背後で水瓶の割れる音がした。そして水のこぼれる音。
「拳圧……衝撃波か!?」
俺の身体を素通りして水瓶を割ったのだ。
「大丈夫かセイレン」
「……あい」
うつ伏せになって腕でどうにか起き上がろうとしている。
「いきなりとは酷いな、いったい何なんだ。返答次第では俺にも考えがあるぞ」
マーマン三人男は俺の威圧感で少し冷静になっただろうか。
セイレンに俺の上着をかけ、肩を貸して座るのを手伝ってやった。はぁ、セイレンに傷は無いようだ。
「さあて、説明してもらおうかねえ……」
俺はゆっくりと立ち上がって顎を出して奴らを見下すようににらみつけてやった。