はいぎょ
竜巻かあ。空から魚が降ってくるなんてびっくりだったけど、魚だけじゃなくてマーメイドも降ってきたし。まあその前は島が浮いていたからな、もう空から何が落ちてきても不思議には思わなくなったよ。
それにしても結構広範囲に魚が散らばっているな。ルシルに森の方を頼んだが、草原だけでもかなりの食料が取れそうだぞ。
「こりゃあ魚の保存方法を真剣に考えないとな。塩漬けか燻製か。塩も木片もなければ天日干しもよさそうだな……」
「大丈夫だよお兄ちゃん」
言葉だけで聞けばかわいらしいのだがそれが低いダミ声だというとそうもいかないな。さっきっから俺を狙っていた視線の正体がこいつらか。
「何かな、この魚を分けて欲しいとかか? 今日は空から魚が降ってきてね、いっぱいだから取ろうと思えば君たちもたくさん取れるんじゃないかな」
そう言ってはみたものの、こういう輩は通用しないだろう。だって雰囲気からしてよくあるチンピラか追い剥ぎって感じ……。
「えっ!?」
ぎょっとした。
「ま、マーマンか、お前たちマーマンか!? でも何で立って陸を歩いているんだ!」
「ほほう、俺らをマーマンと知っているのか」
そりゃあそうだろう。上半身裸でヘソから下は魚のヒレだからな。いやまて、魚部分も裸だから結局全裸でうろついているって事か!
そのマーマンが三体……一応三人、かな。が、いた。考えようによってはかなり危険な状況だ。
「だとしたら話は早いんじゃあねえかあお兄ちゃんよう? その魚は海の魚だ」
「そうだね、海で捕れる魚のようだね。色も派手だし身体も大きい。川だとここまではなかなか育たないからなあ」
「で、だ。俺らはマーマン。海の種族だ」
「みたいだね。立って歩いているのにはびっくりしたけどさ」
「そんな事はどうでもいい! 海に生きる魚は産みに生きる俺らの物。だからこの魚どもはぜーんぶ俺らの物ってこった!」
またいきなりな事を言い出したな。立っているのはどうでもいい事らしい。
「おいおいちょっと待ってくれよ。それだと何かい、海産物は全部お前らの物だってのか?」
「そう言っただろうが」
「いやいや、この魚は空から降ってきたんだ。でなければこんな所でビチビチ跳ねていたりしないだろう? 言うなればほら、神からの贈り物って事だよ、うん!」
神なんて言っても神自体が何者か知ってしまった俺からしたら、この論理も破綻しているんだけどね。
「神ぃ~? そんなものを信じているのか!? ぎょーっぎょっぎょっぎょ!」
え、それ笑い? 笑ってんの? うわぁ、口の中は歯がキバキバして噛みつかれたら痛そう……。
「まあね、信じているも何も、ちょっと前までいっぱいいたからさ。それこそ島を空に浮かべていたりしてさ」
「ぎょぎょっ!?」
目を見開いて、それは驚いているって事でいいんだよね? どうもこいつらの反応、難しいなあ。
「そんな訳があるか、島が浮いているだと!? そもそも神がいっぱいいただと!? 騙そうとしたって無駄だぞ、神はただお一方、竜宮の姫様だけだぞ! 無礼な奴だなお前!」
「なんだその竜宮の姫ってのは」
「お前の知っていいお方ではない!」
「だってお前今自分で言ったんじゃん」
「ええい黙れ黙れ! もうお前の運命は決まった! 魚を置いて殺されるか、殺されて魚を奪われるかだ!」
「それだと俺に利点がないじゃないか」
「当然だあ……」
マーマンは三人で、手には銛のような物を持っている。まあ俺の敵じゃないだろうけどな。
「なあ魚は折半しよう。お互い全ては持ち帰れないだろうし、目の行き届かない魚は食べなかったらもったいないだろ、な?」
「それは命乞いのつもりかぁ?」
「まあ……Rランクスキル発動、超加速走駆っ、続けてSSランクスキル旋回横連斬!」
瞬時に三人の脇をすり抜けて一瞬の剣撃を浴びせてみた。
日の光に反射する鱗が綺麗だな……。
「お、俺たちの鱗が……!」
「全部剥かれているだとっ!」
そうなんだよね、すれ違いざまに三人の鱗を全部引っぺがしてやったのだ。どうだこの早業!
「そうだな、命乞いだろう……」
ここで俺は余裕を見せて振り向く。この一瞬がたまらないなあ。
「お前たちの、な」
決まった!
マーマンたちはテュルテュルになった下半身を隠そうとしゃがみ込んでしまった。
俺に突っかかってくるからこういう目に遭うんだ。思い知ったか!