空から振ってきた人魚姫
「ちょっとぉ!」
うわぁ、ルシルが怒っている。でも目の前は真っ暗……。それに微妙に温かくて柔らかいぞ。
「ななな、ゼロぉ!」
急に見えるようになった。明るい空と怒ったルシル怖ぇ。
「どうしたんだよ俺だって急な事でよく……うわっ!」
なんだなんだ、目の前にいるのは上半身裸の女の人じゃないか。でも下半身は。
「魚? それも深海魚みたいな」
触るとちょっとひんやりしていてヌメヌメしている。
「ふひゃん!」
「おわっ!」
びっくりして手を引っ込めると、その女の人……というか女の娘だな。恥ずかしそうな顔で俺を見ているじゃないか。
手にも粘液がテラテラしているぞ。うん、ちょっと海みたいな匂いもする。
「やめなさいよはしたないっ!」
「いてっ。そう急にはたかなくてもいいじゃないか」
「それよりゼロ、あんな魚なんか見てまさかムラムラきているんじゃないでしょうねぇ!?」
「お、お、恐ろしい事言うなよ。だってあれは」
「あれは……?」
ルシルの眉間に皺が寄っているぞ。これはかなり怒っている証拠だ、言葉を選んで……だな。
「あれは女の子じゃないか」
バシッ!
「いってぇ~。いきなりほっぺた叩く事無いだろ~!」
右の頬がヒリヒリする。いたい。なんで俺がビンタを食らわなくちゃならないんだ。
「それとも左も同じようにして欲しい?」
「いえ、ルシルさんごめんなさい。あの女の子は魚でした」
バシッ!
今度は左頬にビンタがヒットしたよ! 避けずに食らってあげるなんて俺も偉い!
「何か言いたそうな目ね?」
「いや何も……それにしてもこのマーメイ……」
「ごほん!」
「マーマンの女の……」
「ごほん、ごほん!」
ルシルがわざとらしい咳払いをする。これはまだ怒りが収まっていないって事だ。
「じゃあどう言えばいいんだよ!」
「そんなの決まっているじゃない」
ルシルの目が死んだ魚のような色に変わった。怖い。
「魚のメスよ」
うわあ、言い放ちやがった。
「あ、あの……」
「おわっ、しゃべったぁ!!」
俺が跳び退いたのは驚いた訳ではない。断じて違うぞ。
「い、いきなりしゃべるならしゃべれるって言ってからしゃべれよ」
「何言ってんのか判んないよゼロ」
「う……」
「くすっ」
あれ、このマーメイド笑うとちょっと可愛いかも。
「ともかくだ、君どこから来たの?」
俺は紳士的に羽織っていたマントを外してマーメイドに被せてやる。優しさがにじみ出ているな、俺。
ルシルもマーメイドの上半身が隠れたからだろうな、少し眉間の皺が減っているようだ。
「あ……」
マーメイドは水かきの付いた手で空を指さした。
「空……?」
そうだと言わんばかりにうなずくマーメイド。って、空って何だよ、どっからが空だよ。
とりあえず、まだ噴水は止まりそうにないな……。
風邪引かなければいいけど。俺とルシルが。
【後書きコーナー】
本編終わったって感じなので、今回はちょっと話の進め方というか書き方を変えてみました。
今まで通りがいいな~っていう方、この書き方の方がいいな~って方、皆さんのご意見をお待ちしています!
それと、いいなって思ったら評価をお願いしますね~。
37.2℃の微熱で身体がジワジワしている絵麻でした。では~。