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新王即位

 オヤジの影が薄くなり、そして空気へ溶けるようにして消えていった。


「ピカトリス、オヤジの遺言はこれで終わりか?」

「そうよきっと。あたしにはこのやり方しかオウルに教わっていないもの」

「そっか……」


 久し振りに聞いたオヤジの声。まさかこんな事になっているとは思ってもみなかったが。


「そう言う事だとすると、今の所この世界を破壊しようとする者はいないのだな」

「そうだと思いたいわね」


 ピカトリスは小さく肩をすぼめて肯定する。


「なるほどな……」


 俺は周りを見回す。

 元の姿と同じ大人の容姿になったルシル。身体自体はバイラマのものだが、魔王の頃と同じ姿だ。

 逆に、今までルシルだった身体は元の所有者であるアリアのものとなった。俺の妹として育った娘。

 そしてピカトリス。女言葉を使う男だが、今は更に動く死体(ゾンビ)という属性も手に入れている。


「ウィブ!」


 上空にいたワイバーンを呼ぶ。


「おう」


 ゆっくりと下りてきたワイバーンのウィブは、大きな翼を広げて着地の調整を行う。

 巻き上げられる土埃。もうあらかた氷は溶けていた。


「皆の所へ行こう。退避していた場所から町へと向かおう」

「承知。ではどうするかのう、ここから北に行った所へホーツクの連中は避難しているがのう」

「ゼロちゃん、そこんところは他の奴に任せてさ、南の方へ行こうよ! あっちも神とか言う奴らが荒らし回ったせいで大変だって聴くよ!?」


 ウィブの背中に乗っていたアラク姐さんがひょっこりと顔を出す。


「南か。そこもいろいろと直さなくちゃならないんだろうなあ」

「アラク姐さん、ウィブも、少しはゼロを休ませてあげてよ!」


 ため息をつく俺を見てルシルが二人をたしなめる。


「ルシルの気持ちはありがたいが、俺だって王だ。国が荒れているならどうにかしなくては、為政者として示しがつかんだろう」

「う~ん、そうは言うけどね……よし!」


 ルシルは吹っ切れた顔で俺を見た。そしてアリアの元へ行って肩を叩く。


「アリア、あなたももう十五歳。まだまだ子供っぽい所はあるけれど、私の知識と魔力を引き継いでいるのだから……」


 ルシルの勢いにアリアも困惑する。


「ま、まさかルシルちゃん……」

「うん、そのまさかよ! アリア、あなた王になりなさい!」


 やっぱりだ。ルシルは名案だとでも言うように得意げな様子で宣言した。


「レイヌール勇王国初代国王ゼロ・レイヌールは、魔王ルシル・ファー・エルフェウス立ち会いのもと、国王の位を次代の国王へ譲るものとします!」


 ルシルは俺とアリアの肩をつかみ、向き合わせる。


「第二代国王、アリア・レイヌールが即位し、王国の発展に尽くします!」

「えっ、ちょっとルシルちゃん、待ってよ!」

「待たない! そんでもってピカトリス!」

「え、何よ。なんだか嫌な予感がするわ……」


 どうなるか判っているであろうピカトリスは、それでも抵抗するかのように軽口を叩く。


「ピカトリス、あなたを宰相として任じ、アリア王の補佐を命じます。以降の国政はあなたに委ねるものとして、王の裁決を仰ぐように」

「え~。あたしそういうのもうゼロ君の時に十分やったわよ」

「ぐだぐだ言わない! ゼロには隠居してゆっくり過ごしてもらうんだから!」

「ルシル……」


 ルシルは俺に向かってウインクをしてみせる。

 小さい時の姿と違って魔王の頃の姿だ。大人の女性として俺に向ける笑顔は、なかなかの破壊力があった。


「まあしょうがないわね。あたしはすぐに別の奴を宰相に据えるからね」

「そこは好きにするといいよ。シルヴィアもいるし、セシリアだっている。何だったらトリンプと一緒に国政を担ってもらえばいい」

「おいおいいいのかよ、そんな勝手な事を言って」

「ゼロは黙ってて。もうゼロは王様じゃないんだからさ」

「いや、それもだな……」

「いいの! ね? だよね、アリア」


 ルシルの強引な話に反対するかと思ったが、アリアは俺の予想に反して素直にうなずく。


「いいよ、これからアリアが王になって皆をまとめていくから。国の治め方とかはルシルちゃんの記憶が残っているし、ずっと旅の間見ていたからね、お兄ちゃんのやり方とかも勉強してたよ」

「そうなのか、アリア……」


 ピカトリスが俺の背中を軽くさする。


「お兄ちゃんが思っていたより、妹の方がしっかりしているかもしれないわね」

「うるさいなあ」

「ま、そう言う事だから、あたしが補佐するからお兄ちゃんはとっとと隠居して、どこへなりとも行っちゃいなさいよ!」


 さすっていたかと思うと俺の背中を強く押し出すピカトリス。


「ずっと戦い詰めだったんだから、ね。お兄ちゃん」

「アリア……」


 俺は覚悟を決めたアリアの顔を見て、この国の行く末を妹に託そうと思った。


「勇者よ、どうしようかのう?」


 ウィブが翼をはためかせて俺の顔をのぞき込む。


「そうだな、空に行ってから気になった所へ行ってみようか!」

「ほう、それもまたよいかのう」


 俺はアラク姐さんの手を伝ってウィブの背中に乗り込み、ルシルに手を伸ばす。


「行くぞルシル!」

「うん!」


 ルシルの手を握り引き寄せる。

 ワイバーンの背の上で俺は飛びついてきたルシルを受け止めた。


「こんな姿になっちゃってなんだけどさ」


 ルシルが何やらいたずらっ子のような顔を寄せてくる。


「何だ?」


 返事をした俺の唇にルシルの唇が重なった。


「お、おい!」

「ふふっ」


 俺の目を見てルシルが笑う。


「ゼロ、大好き!」


 ウィブの背中に飛び乗った一連の動きだっただけに、周りの皆は何があったのか気付いたのだろうか。


「勇者よ、よいかのう?」


 しらばっくれてウィブが呼びかけるので、俺は慌てて返事をする。


「おう、大丈夫だ! 出発してくれ!」


 地上でアリアとピカトリスが見守る中、俺たちは空へと飛び立った。

【後書きコーナー】

 長いことお読みくださりありがとうございます。

 本編のイベントはこれにてほぼ消化しました。あとはエピローグと外伝を、と思うところですが、一年以上毎日更新を続けているところも一区切りしようかと。

 まだ冒険の種はたくさんありますので、ご意見ご要望をどしどしお寄せいただけると嬉しいです。そうしたら延長戦で活躍もできる、かな?

 ほんと、長いことお付き合いくださって、ありがとうございました。ゼロたちも喜んでいると思います!

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