息子へ
オヤジの影が話を続けた。
『だがな安心しろ! 俺が創生にして全なる神の役割として、この世界を存続させるように尽力した結果……』
いちいちもったいぶった言い方をする。
『この世界は俺たちの文明が続く限り、共に存続する事となりました! おー、パチパチパチ!』
一瞬俺たちを包む静寂。
「は!?」
『はいここ、拍手して喜ぶ所ね~。はいっ! まあ後は俺たちの努力した話になっちまうからあまり説明するのもかっこ悪いけど、まあなんだ。
バイラマが世界を崩壊させようとしたのであれば、俺、オウルのプレイヤーはもうこの世には存在していないんだと思う。あいん……いやあいつはそういう所あるからな、俺が死んだらこの世界を停止させようとするに違いない。
だがあいつの事だ、世界の中の人間たちにも情が移っているだろうからな、自分で引導を渡すようにしたがるだろう。無条件にシャットダウンさせるだけではなく』
バイラマはそんな力も持っていたのか。俺たちと会話する事無く世界を止められる……。止められたという事か。
『それでもこうしてこの世界の住人が俺の言葉を聞いているとすれば、バイラマを撃退できた、あいつを強制セッションアウトに持ち込んだはずだ。あの角を外してな』
バイラマの角がやはりこの世界との橋渡し的な部品だったのだな。
『俺たちの世界でお前たちの世界が継続して時を刻めるよう、システムの分散管理と同期をリアルタイムで行うように設定した。そして俺の遺産、になるのかな。それを基金として運営組織も作って運用益で資金を調達……って、俺はそこまで話さなくてもいいか』
影があからさまにもじもじと恥ずかしそうな動きをする。
『これ編集できる? できないか。まあいっか。
そう言う事でな、お前たちの世界は続く事になった。これは創造主の最後の役目だ。まあこれからちょこちょこ誰かがログインしてくるかもしれないが、その時は構ってやってくれ。
でもバイラマはプライドが高いからな、もう二度とアクセスしようとは思わないだろうし、きっと角を折られてアバターの所有権を失っているだろうからな! ぷっ、がはははは! 想像しただけでも笑えるぜ! はーっはっはっは!』
どうも感情の起伏が激しいというか、そんな所もオヤジらしいと言えばオヤジらしいかな。
『そんな所だから、君、なのか君たちなのか判らないけど、とにかくこの世界の事、よろしく頼む。そして楽しんでくれ!』
オヤジの影は両手を広げて高らかに笑った。
『そしてできたらでいいんだがな……』
影が動きを止めて何かを考えている風に手を顎に当てる。
『この世界のどこかに、俺の能力を受け継いだ者がいると思う。しっかり育っていれば勇者として頑張っている事だと思う』
「……オヤジ」
『勇者ゼロに会う事があったら伝えて欲しいんだが……』
またオヤジの影が恥ずかしそうにもじもじした。
『あいつにはあまり構ってやれなかった。でも病室でお前たちの世界の事、お前の事はモニターしていた。俺の代わりと言っちゃあかわいそうだが、家族を、そして仲間を救ってくれた事は俺も見ていた』
「神の……視線か……」
『本当にありがとう……。ゼロ、できの悪いオヤジで済まんな。仲間を、そしてお前の助けた人々を、どうか見守ってやって欲しい。これからも助けてやって欲しい。悲しい涙を止めて欲しい』
「……ああ。もうやっているさ」
『お前はそれができる子だ、だから俺は安心して逝ける。だがな、一つだけわがままを言わせてくれ』
「一つとか言って、どうせ一つじゃないんだろ……」
オヤジには聞こえていないのを知っていても、自然と答えてしまう。
『お前の正しいと思う事をしろ。そしてお前が大事だと思った事は命に代えても、世界を敵に回しても守り抜け!』
「オヤジ……」
『そしてお前の隣にいる人と、幸せな家庭を築いて欲しい』
俺の目には涙がたまってくる。別に泣いている訳ではないが、視線が揺れた。
俺はルシルの手を握って身体を引き寄せる。
「ゼロ……」
ルシルの声に俺は黙ってうなずいた。