残された言葉
空高く投げられた角と首飾りが融合する。柔らかな光が広がり、ぼんやりとだがその中に人影が見えた。
「ピカトリス、何か……いや誰かいるぞ。大丈夫なのか?」
「あたしも初めてやったからこれがどうなるか判らないのよ……」
俺たちは不安を抱えながらも上空の人影を見上げる。
自然と戦闘態勢を整えながら様子を見た。
『あー、あー。えっともういいのかな? いいの? あーあー』
上空の声が聞こえる。バイラマとは違う声に俺の緊張が少しゆるむ。
「オヤジの声だ……」
「オウルね」
俺とピカトリスからこの声の主を特定する言葉が出る。
ゆっくりと光に包まれた人影が降りてきて、俺たちと同じ目線になった。
『聞こえているか? こちらぜんい……いやオウルだ』
「オヤジ! いきなりなんだってん」
『あーすまんすまん、これは俺が声を吹き込むためだけに作ったアバターでな、通信はできねえんだ。俺が一方的に話をするだけで悪いが、聴いてくれ』
俺は言葉をさえぎられた意味を理解しつつも、聴く事しかできないもどかしさにいらだつ。
「くっ……」
『この音声ログを再生しているという事は、旅の仲間だったピカトリスに伝えた事がそのまま伝わったのだと思う。そしてその条件として俺のネックレスとバイラマの角が使われたはずだな』
ピカトリスが持っていたのはオヤジの首飾りだったのか。
『そう言う事なら、無事、と言うか何と言うか、バイラマの破壊活動はどうにか止められたようだな。なので、俺はこれからその先の事を話そうと思う』
いつものオヤジらしく脳天気で偉そうな物言いだ。
心なしか影もふんぞり返っているように見える。
『バイラマがいなくなった事でこの世界にはプレイヤーが一人も存在していない状態になっているはずだ。俺たちは誰一人そちらの世界へログインしていない状況だ。こうなると世界は独自の進化を辿る事になる。俺たちの誰とも接触しないため、まったく関与されない状態だからだ』
たびたびよく判らない単語が出てくるが、おおよその意味は把握できた。アリアはともかく、ルシルはその表情から俺と同程度には理解しているだろう。
『今までも俺たちの世界と切り離された世界はいくつか存在していたが、管理者も利用者もいない状態でサービス……世界を維持する事はなかなか難しい事だった。だからこの世界ももうじき消える運命にある』
「何だって!」
「やはり消えるの……?」
俺たちの中にも動揺が広がる。アリアは俺の服をつかむ手に力が入るくらいだ。
俺は固唾を呑んでオヤジの言葉を待った。