死者への復活
バイラマが凍らせた大地が徐々に溶け始めた。溶岩は冷えて固まってかさぶたのように大地の切れ目をふさいでいる。
「ルシル、アリア」
俺は二人に声をかけた。姉妹のように似た姿だというのは当然だ。何せ元は同じ身体と言っていいのだから。
「バイラマは世界を滅ぼそうとしたが、その行為は既に行えない。そうだろう?」
「そうね、多分」
ルシルがバイラマの記録を検索して確認した。
「でも、この世界の根本、次元そのものが停止してしまったら私たちにはどうしようもできないみたい」
「いつ消えるか判らない次元、か」
「それまでは生きていられるのでしょうけれどね」
不確かな安定の上で生かされている俺たち。次の瞬間この次元が消滅するかもしれないという緊張。
「お兄ちゃん、アリア怖いよ……」
アリアは俺の服をつかんで潤んだ目をこちらに向ける。
「心配するな、という訳にも行かないが俺たちにどうこうできない事について悩んでも仕方がないだろう」
俺はアリアの頭を軽くなでてやると、アリアは少し落ち着いたようだった。
「それにしてもピカトリスは……残念なことをした。かなり長く生きていたとはいえ、こんな事になるとは悪い事をしたよ」
「そうかしら?」
俺の後ろで声がする。発音は女言葉だが野太い声は男のものだ。
「何、ばかな、まさか!」
俺は慌てて振り返る。
そこで立っていたのは、血の気は引いているが自分で立っているピカトリスだった。
「ピカトリス! なんで!? お前死んでんじゃないのかよ!」
「うーん」
ピカトリスは右手で左腕を持ち上げたり、首を動かして音を鳴らしたりする。
「思った通りだわ、あたしの生命活動は停止していたみたいね」
「何だそりゃ。って言う事は死んで……でも今こうやって動いているよな!?」
「それはそうよ。だってあたし死霊魔術師よ? 生きている間に死霊術を施しておくなんて事くらい簡単よ」
あっけらかんとピカトリスは言い放つ。
「動く死体の村とかもあったでしょ? それと似たようなもんよ」
「似たようなって……じゃあお前はもう死んでいるのか?」
「そうよ。でもゼロ君が言うように、あたしもかなり人間としての生は過ごしていたからね、ここらで一度死んでおくのもいい機会なんじゃないかしら?」
ピカトリスは軽く言うが、人の生死ってそんな単純なものなのか?
「ともかくね、バイラマの角がまだ転がっていると思うんだけど」
「まさかバイラマがその中にいるとか!?」
ルシルがアリアの身体からバイラマの身体に移った時みたいに、魂を引き継ぐ鍵のようなものがバイラマの角にも宿っているとか言うのだろうか。
「それは無いわ。昔オウルに聞いた事があるけど、世界と接続が切れた神は話したり動かしたり出来ないって言うから」
「そうなんだ……」
俺は安堵のため息を漏らす。
「でもね、過去の記録は残せるらしいのよ」
「記録? ルシルが見ているバイラマの記憶のようなものが角にもあるのか?」
ピカトリスは首を横に振る。
「待ってね、それには秘術がいるらしくて」
ピカトリスがバイラマの角を拾い上げ、空高く放り投げた。
「そしてこれが、オウルから託された物!」
ピカトリスが首から下げていた首飾りを引きちぎり、同じように空へと投げる。
「マスタースキル、記録の再生!」